山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

今度はメバチ

 先日、東大西洋のクロマグロについて漁獲規制強化や養殖による対応という報道がありましたが、今度はメバチマグロの漁獲も規制強化という話が入ってきています。

メバチ30%削減を=事務局が提案-中西部太平洋まぐろ委」(時事通信12月1日)
「太平洋中西部のマグロ資源を管理する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)事務局がメバチマグロ漁獲量の30%削減を提案していることが分かった。8日から韓国・釜山で開かれる年次会合で議論される見通し。」

 メバチマグロはクロマグロよりも安いマグロとして流通しており、普段の食事にも影響が出そうです。

 日本は、「漁業者への影響が大きい」として直ちに削減には応じられないとしているといいます。
 今回問題になっている中西部太平洋水域では、2006年の場合、太平洋全体のメバチマグロ漁獲量22万6千トンのうち、約半分の12万3千トンを占める水揚げがされています。さらにそのうち、最大割合の約3万6千トンを日本船が水揚げしているようです。たしかに、日本の漁船が最大の影響を受けることになります。
 ちなみに、日本以外ではフィリピン、インドネシア、韓国、台湾などが多いとされます。特に、ここ数年で2万トンを漁獲するようになったインドネシアの伸びが目立ちます。単にこれまで捕捉できなかった暗数が表出してきたという面もあるのかもしれませんが、気になるところです。

 では、肝心の資源状態がどうかというと、日本の調査では1970年以降の総資源量は、ほぼ安定しているということです。1970年以前に比べると絶対的な資源量は減っているものの、加入量が増加しているため、資源が安定利用できているようです。現在の資源水準のほうが、再生産が増え利用が最大効率化する資源量(MSY水準)に近いのだそうです。
 初期資源量に対する現在の資源水準は、仮説によっては海区平均で28%と言い、一見するとぎょっとする数字です。この数字を出して、マグロは絶滅寸前といわれれば、納得しそうです。
 しかし、これでも理論上MSYを上回っており、もっと資源量が減るような漁獲をしうるといいます。(絶対数を減らしすぎると、加入量が減った場合に劇的な影響になるでしょうから、単純にもっと減らしたほうがいいとはいえないでしょうけど。)
 結局、現状の捕獲では乱獲とは言えないと結論付けています。もっとも、高い加入量が続かない場合、資源枯渇につながるとは言います。

 個人的な感想としては、漁獲統計上の暗数や、資源推定の不確実さ、絶対的な資源量減少による冗長性の小ささ、インドネシアなどの急激な伸びなどを考えると、早めに手を打っておくのも必要だろうとは思います。特に、今のところそれほどではない中国の漁獲が、今後増加する蓋然性からすると、そう思えます。だいたい、マグロなどの大型魚を食べすぎという気がするのは、さておいても。
 ただ、一応、科学的に見ると、日本の主張がそんなにおかしいわけでもないとは言えそうです。


参考
平成19年度 国際漁業資源の現況 」(独行法・水産総合研究センター)

レンバタ島のマッコウ捕鯨

 某巨大掲示板からのアクセスが急に出てきたので、なんだろうと思ってたどってみたら、インドネシアのレンバタ島ラマレラの捕鯨が危機にあるようです。

『揺れる捕鯨の村:インドネシア・ラマレラから/上 観光化説くNGO
 「援助」で誘う「文化」の断絶』(毎日新聞2008年8月26日)
 イギリスの環境保護団体が現地を訪れ、捕鯨を中止してホエール・ウオッチングやその他の漁業に切り替えよと迫ったとのこと。

renbata.png レンバタ島Lembataとは、インドネシアとオーストラリアの国境地帯である小スンダ列島の島で、正式にはロンブレン島Lomblenといいます。ティモール島の近くです。(地図はWikimediaの画像を編集)

 レンバタ島の捕鯨については、記事中に登場する小島曠太郎氏の「クジラと生きる―海の狩猟、山の交換」(中公新書、1999年)という本に詳しいです。マッコウクジラ数頭を筆頭に、シャチやイルカなどのハクジラ類を、昔ながらの丸木舟で捕獲しているといいます。マッコウクジラの肉は癖が強いそうですが、現地では非常に好まれているようです。
 捕獲した鯨は肉を干物にして、主に内陸の農耕民との交易に用いるそうです。村全体の共有物に近いかたちで再分配され、各村人が交易に出かけて主食のトウモロコシに換えるといいます。
 面白いことに、漁民が自分たちで鯨肉を食べることはあまりないそうです。主食のトウモロコシを得るための貴重品だから、自分では食べないようです。なので、鯨料理の種類もあまり多くないそうです。もっとも、これは、鯨肉に限らず料理法自体があまり分化していないということのような気もします。

 問題のマッコウクジラは、現在では絶滅の可能性はまずないだろうと思われます。全世界で10万5千頭以上(記事には北西太平洋に10万2千頭となってますが、近年の研究では同海域3万頭ほどのようです。)が生息すると推定され、一方でほとんど捕獲も行われていません。日本の調査捕鯨で年に10頭以下と、後はレンバタ島程度なのではないでしょうか。
 当該環境保護団体の担当者は、『「生息数は計画に関係ない」とし、「目的は住民の生活水準向上だ」と計画続行を主張』しているそうです。しかし、「クジラ・イルカ保護協会」という団体名からして、生活水準に主な目的があるとは思えないのですが。

 仮に生活水準向上が目的だとしても、近代的捕鯨装備の供与を受けても昔ながらの方法に自ら回帰したラマレラの人々に対して、「生活水準向上」と称して変化を迫るのは疑問です。物々交換で生活していた周辺の農耕民の生活も、基盤を破壊されることにつながるわけで、まともな行為とは思えません。

追記
 環境保護団体側のエリック・ホイットErich Hoytという方は、ホエール・ウォッチングに関して世界的に著名な人物のようです。もともとはシャチなどクジラ類の研究者で、その後、環境保護とホエール・ウォッチングの推進活動家になった方だといいます。日本にもやってきてホエール・ウォッチングの広報活動・興行をしています(三河湾の例)。
 ホイット氏の主張は、捕鯨よりもホエール・ウォッチングのほうが経済効果が高いから、捕鯨をやめてホエール・ウォッチングをせよというもののようです(概略としてJapan-Times紙2005年6月21日に氏の文章があります)。レンバタ島での活動もその一環ということですね。国際捕鯨委員会IWCでも、非致死的利用も最近の議題になっているようです。
 しかし、「大方町近海に13頭いるクジラを捕獲すると4億円程度の収入なのに、ホエール・ウォッチングなら15年で51億円の経済効果となる」旨の例などを挙げているようですが、乱暴すぎると感じます。現代の持続可能な捕鯨の考え方からすると、こんな全頭捕獲はしないでしょう。それに必ずしも観光と捕鯨は二者択一でもないと思われます(ふれあい牧場でジンギスカン)。資源量や集客見込みによって適宜組み合わせて利用すればよいだけのような気がします。
 なお、こちらにホイット氏の公式サイトがありますが、更新は停止状態のようです。

アイスランド捕鯨停止と鯨肉汚染の実態

『アイスランド、不採算で捕鯨を中断 対日輸出できず』(産経2007年8月27日)
『幹部は「日本政府と食品安全基準や輸出許可について交渉中だが、まだ結論には達していない」と話している。』(一部引用)

 アイスランドは、ノルウェーと並ぶ近時の主要な商業捕鯨国でした。
 といっても、今年度の計画ではミンククジラ30頭にナガスクジラ9頭といった商業枠設定(他に調査捕獲のミンククジラ30頭)。日本の調査捕鯨(ミンククジラ1000頭強など)よりも、だいぶ小さい規模です。

 興味深いのは、日本への輸出が実現できなかった理由が、食品安全基準、ようは有害物質の蓄積という点です。
 日本の調査捕鯨が行われている北西太平洋や南極のミンククジラ類では、一応、安全という扱いになっています。(例外的に北西太平洋産のうち、皮脂に関してはPCB濃度が暫定基準超えてますが。)
 これに対し、アイスランドからの輸入だけが問題になっているというのは、それだけ大西洋海域の汚染が高度ということなのでしょうか。それとも、実質的には国内捕鯨保護のための障壁が設定されているのでしょうか。
 そういえば、ノルウェー産の鯨肉輸入の話も、現在どうなっているのか聞きませんが、同じ事情で止まっているのでしょう。

 ちなみに、かなり高度のPCB・水銀汚染が確認されている国内産ハクジラ類については、食事指導の対象とはされつつも流通制限はされていないようです。
 後掲参考資料の厚生労働省と鯨類研究所の共同研究を見ると、中国産ウナギ(詳細不明も1.5ppmという例がある)も真っ青の水銀(紀州産ハンドウイルカ筋肉のメチル水銀平均値で6.6ppm)が検出されているようです。国内の暫定基準値(メチル水銀で0.3ppm)をはるかに超える汚染度です。
 こうしたハクジラ類の基準を単純に当てはめる限り、大西洋の汚染が高度だというだけでは説明できなさそうな気がします。データを見ない限り結論は出せませんが、やはり、何かもう少し大人の事情がありそう。

 ところで気になったのですが、基準が「暫定」規制値というのはどういうことなんでしょうか。
 1972・1973年に、PCB・水銀について、厚生省(当時)がそれぞれ設定したもののようですが、その後、30年以上経っても正式規制値の設定は行われていないのはどうなんでしょう。

参考
鯨由来食品のPCB・水銀の汚染実態調査結果について」(厚生労働省)
妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項の見直しについて」(厚生労働省)
中国産のウナギから水銀」(朝鮮日報2002年8月9日)

うさん臭い魚介には蓋をする?

『魚介類すっきり チョウセンハマグリなどハマグリに統一』(産経iza)
『「シナハマグリ」「チョウセンハマグリ」もハマグリでOK-。水産庁は、小売り販売の際に使える生鮮魚介類などの名称に関するガイドラインを見直し、関係団体などに通知した。原産国を記せば種にかかわらず「ハマグリ」とし、アキサケやトキサケなどの季節名も表示できるようになる。これまで「標準和名」の基本が厳密すぎて混乱を招いていたためで、「消費者の理解や流通の実態に近づけた」という。』(以下略)

 先日、鰻製品の原産地表示制度が割合にしっかりと整備されているので感心したのですが、このガイドラインにはあまり感心しません。(高級魚風の名称への規制や地方名に関する考え方などは理解できるんですが。)
 消費者の理解の実態に近づけたというのですが、あるべき理解の水準・情報提供の水準が前提として問題にされるべきです。たんなる現状追認では意味が無い。
 仮に、理解の一般的な水準が低くとも、知りたい人がいた場合に調べる手がかりとして、もっと理解する手がかりとして、種名はあるていど厳密であるべきです。

 個別的な適用に関しても、ちょっと疑問があります。
 例えば、ハマグリとチョウセンハマグリでは、味に違いがあるとするのが流通側の認識のようです。波崎漁協でも、『国内産はまぐりでも、内湾性(引用注:ハマグリ)のものと外洋性(引用注:チョウセンハマグリ)のものでは味が違います』としています。
 素人が普通に食べてわかるかどうかは別としても、一応の実態として区別されてるんです。

 混乱を招く(「あら、普通のハマグリは置いてないの?」)とかいうことは、わからないでもないですが、だから表示しないというのはいささか乱暴すぎる気がします。
 詳しく表示してあれば、例えば、昔のハマグリが採れなくなって、チョウセンハマグリに頼らざるを得ない環境になっていると気付きます。身近なことから環境を考える良いきっかけになります。
 そう、おおげさにいえば、食卓から地球環境に思いを馳せる食育の機会が奪われようとしているのです。はい、少し大げさに言い過ぎました。


追記
 チョウセンハマグリの和名の由来は、「朝鮮」ではなく「汀線」だという説もあるようで、茨城県の波崎漁協などはそうした見解を取っています。同県は、チョウセンハマグリの主要産地のようです。
 私は、単純に朝鮮はまぐりだと思うのですが。汀線というのは波打ち際のことですが、前述の通り、チョウセンハマグリはもっと沖の方に生息する種類です。朝鮮~という和名は多いですしね。

 国内ではチョウセンハマグリが主流と書きましたが、さらにいうと、輸入物のシナハマグリがハマグリ類消費のほとんどを支えるのが真相のようです。
 ハマグリの最大産地の有明海では、1970年代の1/20の150tに減少。チョウセンハマグリでも、鹿島灘で1000t以上だったのが700tに。両種合計で国内漁獲2000t以下(かつては30000t以上)といいます。うち7割以上はチョウセンハマグリ。
 一方、シナハマグリを主力とした輸入は、25000tから30000tと言います。

参考資料
「魚介類の名称のガイドライン」のとりまとめについて』(水産庁プレスリリース2007年7月30日)
波崎漁業協同組合」公式サイト。鹿島灘はまぐりについてのQ&A等。
蜃気楼をつかめ』(「Sophia Forest」より)

鰻ロンダリングは合法だって?

 土用丑の日ということで、どこへ行ってもウナギ鰻うなぎです。近くのスーパーでは、国産と中国産ととりまぜていろいろ売っていました。
 最近、急に「国産」鰻が増えたような気がするという話を、ある主婦さんはおっしゃっていました。
「国産って言っても、どうせ日本で加工したら、国産になっちゃうんでしょう?」

 さて、その辺どうかと調べてみると、こと鰻に関しては、そう単純ではないようです。
 食品表示を決めているのは、農林水産省が管理する「日本農林規格Japanese Agricultural Standards」いわゆるJASについての法規です。一般的には、平成11年改正の「改正JAS法」という法律と、これに基づく省令によることになります。(食品衛生法のからみもありますが割愛。)
 鰻蒲焼が含まれる加工食品の品質表示基準には、原産国の表示義務があります。この原産国とは、「性質を変えるような加工をした場所」を意味するのは、奥様ご指摘の通りです。そうすると、中国で養殖したウナギを、日本で加工すれば、鰻蒲焼(国産)となります。工場が愛知県にあれば、愛知県産と書けますね。

 ところが、鰻の場合、特別規定がありました。
 「うなぎ加工品品質表示基準」が、それです。
 これによると、容器に入れて販売する鰻製品のうち、上記の基本ルールで「国産」となるものについては、原材料の『原産地について、国産品にあっては国産である旨を、輸入品にあっては原産国名を記載すること』が、義務付けられています。
 つまり、先ほどの例の中国ウナギを日本で蒲焼というものでいうと、製品としての鰻蒲焼の原産国は日本ですが、原材料は「うなぎ(中国産)」という表記がされることになるようです。

 まあ、細切りにすると適用が無い(うなぎ加工品2条)とか、外食やお弁当には適用が無いとか、いろいろ抜け道もあるのでしょうけれど、法制としては結構きちんとされているようです。
 一番の問題は、これがどれだけきちんと守られてるかって所なんでしょうけどね。自衛したければ、生産者名の表示などを頼りにするしかなさそうです。
 そういうことらしいのです。奥様。

参考
加工食品に関する共通Q&A(第1集)」(厚生労働省より)
うなぎ加工品の原料原産地表示に係る追跡確認調査の結果概要」(農林水産省より)
プロフィール

山猫男爵

Author:山猫男爵
ここは「塹壕文庫」「山猫文庫第二壕」に続いて三代目のブログになります。
連絡したいことがある方は、記事のコメント欄か、サイドバー下方のメールフォーム、あるいはツイッターから、お気軽にどうぞ。
Twitter:baron_yamaneko

最新記事
カテゴリ
検索フォーム
参加企画
にほんブログ村 歴史ブログ 近代・現代史(日本史)へ
にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ
リンク
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール(不要ならそのまま):
件名:
本文: