山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

リーフ共和国興亡(第3回)

3.スペインの内陸進出計画
(1)アルフォンソ13世

スペイン国王アルフォンソ13世 宗主国のスペインは、この時、まだ王国でした。
 当主は「生まれながらの国王」アルフォンソ13世。現在のスペイン国王ファン・カルロス1世の祖父にあたる人物です。対外拡張的な志向を持ち、強い国王を目指した人物だったように思います。古い型の君主と言えるかも知れません。
 アルフォンソ13世は、1902年に親政を開始すると、ただちに植民地拡張を図ります。密かにポルトガルの併合を狙っていたとも言います。

 19世紀末の米西戦争に敗れた結果、スペインに残された植民地は、モロッコと西サハラ、それに現在の赤道ギニアに当たるわずかな領土だけでした。キューバは独立し、フィリピンとグアムはアメリカに奪われてしまっています。
 スペイン自身、植民地経営に自信を失くしていた節もあります。グアム以外のマリアナ諸島など、太平洋の残存領土は全てドイツに割譲しています。フィリピンも本来はドイツに割譲する予定があったようです。西サハラも、オーストリアに割譲する話が持ち上がっていたと言います(注1)。キューバとモロッコの一部以外、不採算というのが実体だったようです。

 ところがアルフォンソ13世は、こうした方針を転換させていきます。既述の通りフランスとの間で積極的に交渉を重ね、スペイン領モロッコと西サハラの境界を画定。従来手付かずだった内陸部への進出も強化していきます。主な狙いは、リーフ山脈にある鉱物資源でした。同時に、治安を気にしたフランスの強い要請の結果でもありました。第一次世界大戦でも中立を保つと、黙々とモロッコ経営に向かうのです。その割には、進捗は果々しくないとも見えるのですが。
 スペインが、フランスにモロッコ分割を認めさせることができた背景には、英国の思惑があったようです。北部モロッコをフランスが握ることで、ジブラルタル海峡の制海権を失うことを恐れたといわれます。スペインならば安全とは、なかなかなめられた話です。おそらく正しい読みですが。

(2)侵攻
 第一次世界大戦も終わった1920年、アルフォンソ13世は、ついに大規模な侵攻作戦を命じます。東部のメリリャMelilla、西部ではセウタCeutaを拠点に、数万の大部隊が動き出しました。
外人部隊時代のフランシスコ・フランコ将軍 はじめ、スペイン軍は快進撃に成功します。抵抗がなかったのですから、当たり前ですが。西部からの軍は、10月にはベルベル人の聖地の一つとも言われるシャウエンXauen(クサウエン。綴りはChaouenとも)に達しました。その先鋒には、同年にできたばかりの外人部隊(注2)の副長フランシスコ・フランコ Francisco Franco Bahamonde少佐(左画像)が立っていました。
 しかし、1921年1月になると、徐々に地元勢力との戦闘が発生するようになります。抵抗を排除し、街道を整備し、街道沿いに駐屯地を設置しながら進軍は続きます。補給線は、この街道一本だけでした。鉄道は、西部のセウタとテトゥアンTetouanの間に、軽便鉄道が敷かれているのみだったようです。
 2月中旬、ゲリラ攻撃やマラリアに倒れる兵士を出しつつも、東部から進軍してきたスペイン軍25000人は、メリリャとセウタの間、アルセマス(アルホセイマ)Alhucemas湾に注ぐアメクランAmekran川にたどり着きます。(第4回へ続く


注記
1 HAUS氏による情報。

2 フランコ少佐が率いる「外人部隊Legión Española」は、名前とは裏腹に、その90%以上がスペイン人から成っていました。徴兵制の本国軍とは別立ての、いわば制度化された傭兵部隊です。以前のモロッコ勤務中にフランス外人部隊に触発されたフランコ少佐らが、設立を提言したといいます。今でも存続していますが、外国人募集を完全に止め、ただのエリート部隊になっているようです。
 また、駐モロッコスペイン軍には、「カサドーレスCazadores」(猟兵)と呼ばれる軽歩兵を中心とした陸軍通常部隊、外人部隊のほか、「レグラーレスRegulares」(略称:FRI)という組織が含まれていました。和訳すると「モロッコ人正規兵」とでもなるでしょうか。よくある植民地の現地人部隊でした。
 スペイン正規軍以外のモロッコ現地人で構成された武装組織としては、武装警察(略称:PI)と、形式的にはモロッコ王朝のスペイン領総督(ハリーファ)に所属する軍隊も存在しました。なお「ハルカHarka」と呼ぶ補助部隊も一部資料にありますが、これは正式な組織というより、現地人武装集団を指す一般名詞のようです。
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