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山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

日本大学文理学部国際シンポジウム-ノモンハン事件をめぐる国際情勢-

 もう日付が変わって昨日になってしまいましたが、日本大学で開かれていたノモンハン事件についての国際シンポジウムに参加してきました。前日の夜に偶然に開催を知って、飛んでいった次第。
 元々はソ連とモンゴルの間で行われていた研究事業に、日本が加わる形で1989年のウランバートル・シンポジウムとモスクワ円卓会議から始まった国際事業で、今回で12回目になるのだそうです。産経新聞が取材に来ていたので、そのうち記事になるとは思うのですが、一応紹介しておくと日本・ロシア・モンゴルのほか中国からも2人の研究者が加わった計6人による報告とパネルディスカッションがありました。日本からは田中克彦一橋大学名誉教授。詳細は上のリンクより、日大の公式解説を参照ください。

 内容の方は、持ち時間が30分ずつと短かったために深く突っ込んだものではありませんでしたが、それなりに得るものがあったと思います。
 ロシアのワシーリー・モロジャコフ教授から提示された、独ソ不可侵条約締結交渉との関係という視点は、今回のシンポジウムのテーマにぴったりのものと思いました。日本人としては、ソ連=ロシアを領土拡張主義の侵略者と単純化しがちなところ、まっとうな外交アクターとして捉えなおす機会になりそうです。「複雑怪奇な欧州情勢」の理解の助けになるかもしれません。ただ、関東軍のノモンハン事件対処の意図が威力偵察にあったという説は、ちょっと解せないと思います。リュシコフ情報の裏付けならば、張鼓峰事件でも取れていそうなものです。ホロンボイルを戦場に選んだ理由など、詰めて聞いてみたかった気がします。
 個人的には、純軍事的な部分で、ボルジギン・フスレ博士の満州国軍についての報告が特に興味深いものでした。
 中国の研究者からは、どういう話が出るのだろうと楽しみにしていたのですが、ジューコフ回想などをベースにした古典的な勝敗要因分析があっただけでした。要因としてソ連の正義と日本の不正義、下級兵士にまで思想教育が行きわたっていたことを強調したあたりが、目を引く程度でしょうか。いわく1980年代まで、中国ではさしたる研究対象となっていなかったとのことです。研究が本当に不十分なのか、あるいは政治的事情からの発表の不自由なのか、ちょっとわかりません。満州国軍にもほとんど触れないあたり、政治的に難しい部分があるのだろうとは感じます。後で産経新聞の記者が質問し、田中克彦教授からも指摘があったように、当時の蒋介石政権の事件への関心・関与がどうだったのか聞きたかったのですが。まあ、中国からも参加したことに意義があるとして、将来に期待でしょうか。

 ノモンハン事件から70周年、ウランバートル・シンポジウムから20周年という節目であるためか、モンゴル国防科学研究所のゴンボスレン教授と、田中克彦名誉教授からはこれまでのシンポジウムの経過を振り返るような発表がありました。1991年の東京シンポジウムの記録を読んだほかは詳しく知っていたわけではないので、私にはちょっと面白かったです。第1回のウランバートルで日本の発表者が現地にたどり着くまでの四苦八苦、田中克彦スパイ説(笑)など裏側の話がでました。

 一般参加者との質疑応答は、もともと長くはないうえ、後述の田中上奏文問題で時間がかかったこともあって、不完全燃焼気味だったように感じます。時間があれば、私もモロジャコフ教授に前述のあたりを伺ってみたかったのですが。
 産経新聞の記者さんからは、日本軍の細菌戦のことと当時の中国政府の認識の2点の質問が、中国の研究者に向けられていました。1点目の細菌戦の話は、中国の研究者の発表中に日本軍の給水態勢の不備に関連して一言出てきたもので、731部隊(正確には後の731部隊か)が生物兵器をハルハ川などに撒いたために日本軍自身が水源汚染に苦しんだという、いわゆる碇挺身隊の一件です。どうも想定通りの質問だったようで、とうとうと回答が出ていました。詳しくは存じ上げない分野ですが、日本軍の感染死者40名余というのは大きい数字を挙げたなと驚きました。2点目の中国政府の認識の話は、端的な回答はなくはぐらかされた印象です。

 全体を見ての感想ですが、学問の自由が保障されていることは素晴らしいなと思いました。日本万歳。
 一般参加者との質疑応答で、中国の研究者に対して「田中上奏文を偽書と認めるか」という趣旨の質問が出たところ、司会が遮って少々もめた場面がありました。前提をはっきりさせたい気持ちもわかるのですが、うかつな発言が命取りになりかねない相手の立場を、配慮すべきだと思うのです。ここで一研究者を吊るし上げてもしょうがないでしょうし、本当にその人が祖国で吊るされちゃったら、それこそどうしようもない(今はそこまでではないにしても)。自由が当たり前になって、私はそのありがたみを忘れてしまっていたのだなと、ふと気付かされるやりとりでした。
 ノモンハン事件の研究は、ゴルバチョフ時代から鉄のカーテンの向こうの情報がドッと出てきて、大きく進展してきました。そんな中で、この間のメドベージェフ大統領発言で「ノモンハン事件についての歴史修正主義は許されない」旨の冷や水を浴びせられました。ゴンボスレン教授の指摘したことですが、この国際研究シンポジウムが未来へと前進できるのか、重大な局面に差し掛かっているようです。
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山猫男爵

Author:山猫男爵
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