山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

ミンダナオ島戦記―マキリンの雲は燃えて

 もう一年以上前になりますが、フィリピンのミンダナオ島で、生存日本兵が見つかったというニュースが流れたことがありました。当外務省職員が急行するほどになりましたが、結局誤報だったようです。第二次ダバオ誤報事件などというフレーズが思い浮かびました。


荒木いさお「ミンダナオ島戦記―マキリンの雲は燃えて―」
           (著者名は正しくは漢字で「員力」)(光人社,2003年)

ミンダナオ島戦記―マキリンの雲は燃えて (光人社NF文庫)総合評価:★★☆☆☆
 太平洋戦争末期、フィリピン南東部ミンダナオ島で、日米の地上戦が行われていた。日本軍守備隊最後の精鋭であるはずの第30師団も、圧倒的優勢な米軍により、鬱蒼たるジャングルへと追い込まれていく。待ち受けていたのは、戦闘的なモロ族ゲリラと飢餓地獄だった。
 自らも第30師団歩兵第74連隊に所属していた著者が、一人の若き中尉を主人公として描いた戦場小説。
 レイテ島・ルソン島と日本軍が決戦に破れ、すでに大勢の決したフィリピン戦域で、掃討戦の如く戦われたのが、ミンダナオ島の戦いでした。
 守備する日本軍は、建前上2個師団+1個旅団という大兵力を数えましたが、ほとんどが治安部隊級の戦力。その中で唯一の一流部隊が、第30師団です。とはいえ、その第30師団すら、半数の戦力がレイテ戦に投入されて失われている状態でした。筆者のいた連隊のみが、ミンダナオにいたため無傷でした。
 当然、戦闘は極めて一方的なものとなり、守備隊は壊滅します。ニューギニア、インパールと並び、悲惨な様相だったようです。今でも消息不明の部隊も多く、結果として日本兵生存情報がしばしば出てくる地域でもあります。(モロ族の勢力が強く、政府の力が及んでいないのも一因でしょう)

 タイトルからすると、著者の体験記のように思われますが、そうではありません。「高瀬中尉」に仮託した小説です。
 従って、書かれている戦闘内容などは、かならずしも事実とは限られないようです。戦争全体の状況について知りすぎているような部分が見受けられ、かなりの創作が入っていると思われます。
 戦闘場面は少なく、現地人との交流や敗走生活が飛び飛びに描かれる感じです。内容は、ごく一般的な南方戦場と言ってよいでしょう。なお、ミンダナオ戦最大の暗部である人肉食の話題も出てきません。

 あとがきを参考にすると、むしろ本書の主眼は、戦場体験を持つ著者が、戦後になって思考した内容を、戦場という舞台設定の中で表現することにあるようです。その意味で、大岡昇平氏の「野火」などに近いといえるかもしれません。
 ただ、そうした文学として見ても、残念ながら、特別に優れた思想性があるとまでは感じられませんでした。

 私個人としては、記録の少ないミンダナオ戦の記憶を、ありのままに語っていただいたほうが、価値があったように思います。ミンダナオ最精鋭として真価を発揮したと言われる遭遇戦にも参加されたようなのに、小説としての扱いになっているため、史料価値がなくなっています。この点が特に惜しいです。

総合評価:★★☆☆☆(戦記でも戦史でもなく。思いを伝えたいのは、理解できますが。)
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