山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

ソロモン海「セ」号作戦 コロンバンガラ島奇跡の撤収

 太平洋戦争中、制空権を失った日本海軍は、貨物船の代わりに高速の駆逐艦を輸送任務に投入しました。自虐的にこれを名付けて「鼠輸送(ねずみゆそう)」、連合軍の呼んだところの「東京急行Tokyo Express」です。
 そして、その鼠輸送と並行されたのが、小型舟艇を使った隠密輸送です。大発動艇(略して「大発(だいはつ)」)という上陸用舟艇や、以前に紹介した徴用機帆船などが用いられています。これを「蟻輸送(ありゆそう)」と呼びました。


種子島洋二「ソロモン海「セ」号作戦 コロンバンガラ島奇跡の撤収」
                 (光人社NF文庫,2003年)

ソロモン海「セ」号作戦―コロンバンガラ島奇蹟の撤収 (光人社NF文庫)
総合評価:★★★★★
 ガダルカナル戦が日本軍の敗北に終わった後も、日本海軍はソロモン諸島中部の維持に固執。中部ソロモンでの蟻輸送を任務とした「第一輸送隊」が編成された。著者の種子島海軍少佐は、その指揮官に任命される。
 米軍の侵攻により、結局コロンバンガラの維持も困難となり、1943年9月、陸海軍合同の舟艇部隊による「セ号」撤収作戦が行われることになる。本書はその克明な記録である。
 白金書房から出ていた同名書の文庫版ですが、ほかに朝日ソノラマ文庫からも「ソロモン海 敵中突破」の名で出ていたようです。
 著者は、大戦中、駆逐艦「村雨」艦長なども務めていた海軍士官です。
 本書の序盤は、中部ソロモン戦に至るおおまかな経緯と、ビラ・スタンモーア夜戦で乗艦の「村雨」が撃沈されたエピソードを。中盤は、新編の輸送隊での補給任務を、当時のソロモン海域での戦況とあわせて。最後の1/3ほどが、表題の撤退作戦の詳細という構成になっています。撤退後、著者はブーゲンビル島で終戦まで過ごしたのですが、そのエピソードは含まれていません。
 文庫ながら、地図が豊富に使用され、非常に状況がつかみやすいです。

 どうしても視野が狭くなる下士官兵とは異なり、ある程度高い位置からの観察なので、作戦レベルでの戦史史料としての価値もあります。直接出席した作戦会議でのやり取りなどが載っています。
 もちろん、普通の個人戦記同様の個人としての実感が伝わる記述も、いろいろ出てきます。山本長官の白い軍装に不快感を感じた話など。

 任務の特性上、陸軍部隊との共同作戦が多いのですが、その中で出てくる陸軍とのやりとりから両者のズレがわかって面白いです。例えば、輸送物件の書類記載ひとつとっても、海軍では『その他必要物件一式』となる生活雑貨が、陸軍では『鍋釜にいたるまで』細々要求されたりします。
 このほかに、撤退作戦の時の上級部隊である陸軍の舟艇部隊(第二船舶団)が「海戦隊」を名乗っていて、著者はいぶかしく思うのですが、陸戦隊と同じことじゃないかと言われて納得したりしています。

 ところどころ出てくる著者と直接には関係しない面の用兵批判は、ややうるさく感じることもありますが、責任ある士官の一人として従軍した者としては、書かずにはいられなかったのだろうなとも思います。

総合評価:★★★★★(資料価値が高く、読んでも面白く。)
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