山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

死闘の海―第一次世界大戦海戦史

 日本では、戦争というと第二次世界大戦(あるいは太平洋戦争)がまっさきに思い出されるでしょうけど、いや京都の方ならこの間の戦争というと応仁の乱のことになるかも知れませんけど、欧州では「戦争」というと第一次世界大戦のことだと聞いたことがあります。


三野正洋・古清水政夫「死闘の海―第一次世界大戦海戦史―」
                       (光人社NF文庫,2004年)
死闘の海―第一次世界大戦海戦史総合評価:★★★★★
 第一次世界大戦は、人類が初めて体験した世界を巻き込む総力戦として、世界史上に残る一大事件であった。そして海軍史上においては、主力艦と呼ばれた戦艦がその名の通り海上戦力の中心にいた最後の戦いでもあり、一方で潜水艦や航空機が急速に台頭した戦いでもあった。
 日本では従来あまりまとまった資料のなかったこの分野について、豊富に図版も交え単行本とした意欲作が、文庫版として再版。
 これまでも、近代海軍史や第一次世界大戦の概説書では一応取り上げられ、ジャットランド沖海戦などの有名な戦闘については、それなりの資料が存在していたと思います。また、「撃沈戦記」シリーズなどによって、細かな事例も個別的には紹介されてきました。
 しかし、戦争全体の中での海上戦闘の経過をまとめ、しかも英独以外の国についてまで記載をしてあるものは珍しいと思います。書籍媒体に限れば1000円以下で入手できるものは初めてではないでしょうか。

 構成としては、第一部で大戦の概略と当時の海軍技術の水準を紹介した後に、第二部では主要な海戦を、第三部ではその他の特徴的な戦闘を解説しています。さらに第四部で「脇役」露・仏・伊・墺・日・米・トルコの海軍の戦歴についての評価を加え、第五部で総括。付録には主要戦没艦一覧と海戦年表まで付いています。
 入門書・通史としての役割を考えると、第一部がとても良いと思います。日本海軍のお寒い状況や、オーストリアが立派な海軍を有したこと、駆逐艦・潜水艦の発達段階など、第二次大戦とは事情が異なる部分を把握するのに有効です。写真や艦型図が載っているのも○
 各国戦力をグラフ化したところなどは、ちょっとやりすぎかとも思いますが。
 なお、共著となっていますが、分担は不明です。

 内容としては、無制限潜水艦戦などの総力戦らしい部分がある一方、どこかのどかな部分が残っている、第一次世界大戦の微妙な味わいを感じました。特に、敵兵救助をする軽巡「エムデン」とか、女装で臨検をクリアして、燃料を節約するために帆走する「ゼーアドラー」とかの通商破壊艦のエピソードが象徴的です。
 正確性については、ところどころ細かな記述に疑問なしとしませんが、重大かつ明白な誤りは無い気がします。十分おすすめできます。

 最後に、著者の前書きより、大変感銘を受けた一節を引用させていただきたいと思います。
『たとえ力不足であろうと、この海の戦いに関するまとまった通史が一冊でも出版されれば、それを手がかりにより詳しい、より本格的な戦史が世に出る可能性も生まれるはずである。』

総合評価:★★★★★(著者の意図したとおりの一冊になったのでは。)
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