山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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戦争特派員―ゲルニカ爆撃を伝えた男

 湾岸戦争の際に、新聞各社の紙面を飾った「重油まみれの海鳥」の写真があります。イラク軍が石油施設を破壊して海洋汚染を引き起こしている証拠として説明されたわけですが、後に無関係のタンカー事故の映像だと明らかになっています。


ニコラス・ランキン「戦争特派員―ゲルニカ爆撃を伝えた男」
塩原通緒(訳) 原題:“TELEGRAM FROM GUERNICA”(中央公論新社、2008年)

戦争特派員―ゲルニカ爆撃を伝えた男 (INSIDE HISTORIES)総合評価:★★★★★
 ドイツ軍が古都ゲルニカを爆撃してバスクの民間人を殺戮した、とのニュースはヨーロッパの多くの人々に衝撃を与えた。ドイツに対する非難が高まり、ピカソは大作ゲルニカを発表する。このゲルニカ空襲の記事をタイムズ紙に送ったのは、ジョージ・スティアという若き英国人フリージャーナリストであった。
 エチオピア、スペイン、フィンランドと戦地を回るスティアの記事は、たびたび一面を飾り、世論を議会を動かしていく。そして、第二次世界大戦が激化すると、その能力と知識に目を付けた英国軍により、スティアは情報将校に取り立てられ、謀略宣伝の戦場に身を投じることになる。
 残された6冊の著作と日記などから、ジョージ・スティアの短くも劇的な半生を描き出す伝記。
 ジョージ・スティアという人物を、この本で初めて知りました。
 彼の戦場記者としての活動は、タイムズ紙の特派員として、第二次エチオピア戦争直前のエチオピアに派遣されたことから始まります。エチオピア寄りの立場からイタリア軍の毒ガス使用や無差別爆撃を報道し、アジスアベバ陥落後に国外退去処分。直後に勃発したスペイン内戦へ派遣され、途中でフリーに転身します。バスク側からも入国して、そこでゲルニカ空襲に遭遇することになります。バスク政権の崩壊後は、フィンランドの冬戦争を取材し、幾たびも紙面を飾っています。
 不利な報道をされた側により国外退去処分を受けたこともしばしばで、ドイツ軍の英本本上陸後の抹殺リストにも載っていたといいます。
 1940年6月に少尉として英陸軍に入隊し、エチオピア皇帝を利用した伊領東アフリカへの謀略宣伝に活躍します。マダガスカル攻略作戦を経て、ビルマ戦線で対日謀略宣伝工作に従事しますが、1944年のクリスマスに交通事故死で短い生涯を終えました。最終階級は中佐にまで昇進していたようです。

 以上の経歴のとおり、フリーの記者報道と軍での謀略宣伝という一見すると対照的な立場で、戦争報道に携わっていることになります。
 朝日新聞の書評を見ると戦争の問題点を伝える記者としての活動が強調されていますが、情報戦としての謀略宣伝「プロパガンダ」の側面から見ても非常に面白い人物ですし、そういう側面が重要な本になっていると思います。少なくともスティアの場合、自己の事実観察から正義と感じる一方の側に肩入れして、事実報道により世論に訴えようという報道姿勢であると思われ、従軍後の行動もその延長上と言えます。
 戦争報道が戦争の「正義」を形成するという現象に興味を持つ方には、興味深い資料となるのではないでしょうか。

 エチオピア戦争・伊領東アフリカ戦についての日本語資料としても、非常に参考になると思います。彼の見たエチオピア軍の実態や、イタリア軍占領直前のアジスアベバの状況などが出てきます。実は伊領東アフリカ戦についての英国公刊戦史の著者も、スティアのようです。
 エチオピア皇帝との個人的親交もあり、英国亡命中の皇帝に息子の名付け親になってもらったというエピソードには驚きました。

 日本軍に興味がある人にとっては、ビルマ戦線での謀略宣伝関係も面白いでしょう。日本側戦記に、降伏呼びかけや日本のレコードが流れてきた話がよく出てきますが、その舞台裏が見えます。「韓国陸軍連絡隊」の韓国人将校が日本語放送には活躍したようで、その写真も載っています。
 日本側の謀略放送に対するスティアの辛口批評も、ちょっと載っていました。ドイツのホーホー卿に比べると、まるで駄目だそうです。

総合評価:★★★★★(戦争報道と情報戦の濃厚な関係の古典事例)
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