山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

戦艦を盗んだイタリア人

「奴はとんでもないものを盗んでいきました。貴国の戦艦です。」
 イタリアは泥棒で有名なそうですが、その中でもすごいのが軍艦を盗んだという話です。ネット上でも、一部で有名なエピソードです。
 若干バリエーションがあります。例えば塩野七生「イタリアからの手紙」にては、以下の通り。第二次世界大戦直後のナポリで、一人の男が、停泊中のアメリカ戦艦の留守番乗員を艦長が許したと騙って外出させる。乗員が帰ってきたときには、戦艦が消えてしまっていたと。
 話によっては、逆にイタリア軍艦が盗まれたことになっています。美女に騙されて、気がついたら船が無いと。(追記参照)
 さて、これ本当なのでしょうか。手元の資料を見返してみたところ、潜水艦を盗んだイタリア人士官の話が出てきました。

 時に第一次世界大戦が始まって間もない1914年秋のこと、まだイタリアは中立であった頃。アドリア海をオーストリア・ドイツ同盟が押さえたのに、断固たる主張をしないイタリア政府に対し、イタリア王国海軍予備士官アンゼロ・ベロニ(アンジェロ・ベローニAngelo Belloni?)は慷慨していた。
 ベロニは、政府が動かないならと独力で戦うことを決意した。目を付けたのは、フィアット社のサン・ジョルジオ工廠で引渡前の試験中の新鋭潜水艦。10月 4日、制服を着込んだ彼は、予備士官の身分を使って艦に潜り込むと、「無線試験の指揮を執る」と称して工員15名を操り、まんまと出港させてしまったのである。
 早速戦うつもりのベロニだが、実は弾薬も燃料もほとんど積まれていなかったのである。試験航海だから当たり前だ。
 それでもくじけないのがベロニ。フランス軍の援助を得ようと、コルシカを目指した。疑いだした工員たちは、「封緘命令書」をおもむろに開いて見せることで、極秘任務だと鮮やかに丸め込んでしまう。もちろん真っ赤な偽物。そして、イタリア海軍水雷艇の追跡の目を逃れ、見事コルシカ島アジャチオへたどり着いたのである。
 すわUボートかと驚いたのは守備隊のフランス軍。イタリア国旗のおかげで撃沈は免れたものの、ベロニの熱弁は無視されて抑留を言い渡されるはめに。はじめて事態を飲み込んだ工員たちが、ベロニに食って掛かったのは言うまでもない。
 その後、駆けつけたイタリア駆逐艦に引き渡され、潜水艦はラ・スペツィア軍港へ曳航。ベロニはあえなく逮捕され、軍法会議へ送られてしまうのであった。

 とまあ、このような事件が実際にあったそうです。艦名は調査中。
 盗んだほうも盗まれたほうもイタリア人ですが、確かに軍艦盗難事件。この事件が戦艦泥棒エピソードの起源なのかは、ちょっと定かではないですが、信じられないが本当なのです。
 ちなみに軍法会議にかけられたベロニですが、実刑は免れたそうです。むしろ、こっちのほうが信じられない。イタリア参戦後は、さぞかし張り切って活躍したことでしょうね。

参考文献
小谷到『“海の狼”をめぐる喜劇と悲劇』
 (「丸」エキストラ版・第41集「陸海空兵隊戦記」(潮書房,1975年)より)
塩野七生「イタリアからの手紙」(新装版,新潮文庫,1996年)

追記
 美女に騙されてイタリア軍艦が盗まれた話の起源は、仮想戦記と、戦車を盗まれたイギリス兵のエピソードが混じったものではないかと思います。
 たしか、荒巻義雄「紺碧の艦隊」シリーズの欧州戦線外伝に、日本の特殊部隊が、イタリア巡洋艦を盗んでしまうという話が存在したと思います。
 また、イギリス兵が戦車を盗まれたのは、第一次中東戦争の時で、ユダヤ人美女に酔いつぶされて、M-4「シャーマン」戦車を何台か盗られたといいます。
 これらが、イタリア軍のヘタリアなイメージと結びついて、事実とされてしまったのではないでしょうか。
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