山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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戦場を舞う天使

 旧日本軍というと、人命無視の組織という印象が強いのではないでしょうか。
 実際のところも、かなり軽視はされていたとは思います。日本で豊富な資源といえば人間だけですから、そうすることが、ある程度までは「合理的」判断でもあったのでしょう。
 ただ、そんな日本軍であっても、もちろん、できる限りは兵士の命を救おうとしていました。例えば、あのノモンハンの敗北の中でも、患者の航空輸送を行ってかなりの成果を残しているのです。

 ノモンハン事件において、日本軍は約2万人の戦死傷病者を出しています。兵站拠点だった最寄り駅ハイラルへの後送患者は1万2千人に及びました。
 そして、そのうちの3352名(27%)が、のべ767機の航空機によって搬送されたのです。(残り70%は車両輸送。)
 前線からハイラルまでの距離はおよそ200km。悪路のため、自動貨車(トラック)では2日がかりの道のりです。その距離を、航空輸送なら、わずか1時間半で移動することが可能でした。
 3ヶ月で3300人以上という規模は、当時としては史上最大の航空救急作戦だったものと思われます。報告書が『世界戦史上稀なる成果をあげたり』と誇らしげに記すだけのことはあります。

 日本陸軍は、航空機による患者輸送について、それなりの興味を抱いて研究をしていたようです。1925年に専用機の試作を始めています。
 世界的に見ると、第一次大戦中の1915年にフランス軍が使用したのが始まりと言います。フランス軍は、その後、モロッコでのリーフ戦争においても大規模な患者空輸を実施して、3年間で3000人を搬送しました。
 日本の実戦での使用例は、1932年に献納機「愛国2号」「愛国40号」を使ったのが始まりのようです。翌年の熱河作戦では、540名を搬送しています。雨季の泥濘で陸路が麻痺した場合に、重宝されたようです。

 日本で使用された機種は、ドルニエ「メルクール」(愛国2号)に始まり、デハビランド「プス・モスPuss Moth」「フォックス・モスFox Moth」やフォッカー「スーパー・ユニバーサルSuper Universal」、ユンカースJu160などの小型旅客機の改造機がありました。
kky.png さらに、石川島飛行機製作所(後の立川飛行機)が1934年に開発した、「小型患者輸送機KKY」(画像)という専用制式機も存在します。「フォックス・モス」をベースにした複葉機で、25機程度が製造されたようです。献納機として調達されたものもあります。
 いずれも不整地運用に適した頑丈な機体が多かったようです。対ソ戦での広大な草原での運用が意識されたものと思われます。ノモンハン事件は、想定通りのケースと言えそうです。
 ちなみにノモンハン事件では、軍の保有機体のほかに、満州航空所属の民間機も徴用され、活躍しました。通称「スーパー」「ユンケルス」と呼ばれていた「スーパー・ユニバーサル」「Ju160」の、合計3機以上が参加しています。うち1機は、空襲によってか、損傷しているようです。

 ただ残念なことに、日本軍にとって、患者輸送機はやはり贅沢品だったようです。連絡任務などに転用されて、本来の救命に使えない、という軍医の報告もあります。
 患者輸送機が意外に多かった献納機からも、太平洋戦争開戦後はその姿が消えます。戦闘機に重点が置かれたことのほか、主戦場が平原から海原に変わり、実際の使用も困難になったことの影響もありそうです。
 制空権も失われた後は、士官やパイロットなどの重要人物に限って救出するのが、精一杯になってしまいます。
 一方、連合軍はヘリコプターまで使って、前線からの救助を行っていたのでした。


<主要参考文献>
陸上自衛隊衛生学校編「大東亜戦争 陸軍衛生史」(1971年)より、
  『ノモンハン事件教訓事項(衛生関係)報告(抄)』(1940年)ほか。
「戦史叢書 関東軍(1)対ソ戦備・ノモンハン事件」(朝雲新聞社,1967年)
古典航空機電脳博物館
  中島飛行機がライセンス生産した「スーパー・ユニバーサル」患者輸送機の美しい絵。
アイコン&お絵描き工房」小型患者輸送機の画像提供元。
陸軍愛国号献納機調査報告」膨大な資料を基に献納機について研究されている。
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