山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

宮崎連隊はノモンハンで勝ったか

 日本陸軍の「不敗」の名将の誉れ高い人物に、宮崎繁三郎がいます。
 ノモンハン事件においても、第2師団の歩兵第16連隊を率いて、敗戦の中で唯一の勝利を収めたと言われます。例えば戦史叢書においても、「歩兵一六連隊(宮崎繁三郎大佐)が、たちまちにして優勢な外蒙騎兵を撃破し、この方面の戦略態勢は急速に我に有利となった」(717頁)としています。停戦後に占領地に石碑を立て、それが証拠となって国境が日本側有利になったという話もあります。
 さて、こうした話は、ソ連・モンゴル軍の資料も公開されてきた現在、どの程度正確といえるのでしょうか。別宮暖朗は「近時ソ連で公開された文書はそれまでの説をすべて覆しています。(引用中略)宮崎連隊の南方突出のため領土交渉さえ失う方が多かったという結論です。」(掲示板過去ログ)と述べますが、本当でしょうか。

nomonhan_map3.png 歩兵第16連隊(宮崎部隊)の戦場となったハンダガイ(ハンダガヤ)西方地区(ノモンハン全体地図は別記事参照)は、6月末に小競り合いがあった程度で、9月初頭まではおおむね平穏な状態でした。970高地、944高地などに満州国軍の石蘭支隊が展開して警戒していました。(石蘭支隊一部の集団投降は970高地付近で発生した事件です。)ソ連側はエリス山(904高地~東山一帯か)のエリス・オリーン・オボを国境の目安とし、885高地・904高地を占領して、997高地などにも歩哨を出していたようです。
 8月下旬に主戦場のノモンハン方面で第23師団が壊滅した後、日本軍はハンダガイ方面へと増援部隊を送り、大規模な反撃を計画します。宮崎連隊もその一部で、第2師団歩兵第15旅団(旅団長:片山省太郎少将。歩兵第16連隊及び第30連隊)基幹の片山支隊として、アルシャン経由で9月3日にドロト湖付近に到着しています。

 参謀本部などの指示で大規模反撃は中止されるのですが、片山支隊はハンダガイ西方での小規模攻勢を実施することになります。歩兵第16連隊は997高地、歩兵第30連隊は885高地を攻撃、独立歩兵第29大隊(第5独立守備隊所属)も参加する計画だったようです。決行は9月7日夜とされました。
 9月4日、エリス山のソ連軍(第80狙撃兵連隊の1個中隊)は、日本軍6名を倒して1個大隊を撃退したと主張しています。この頃、日本側は事前偵察の将校斥候を出しており、おそらくこれを誤認したものと思います。歩兵第16連隊の将校斥候は苦戦して、負傷者1名を出したようです。
 ところが南クヨヨ高地などの攻撃発起点に配置が終わった後の9月7日、作戦中止が伝えられます。歩兵第30連隊のある准尉は「憤懣にも似た気持ちで切歯扼腕した」と言います。

 しかし、なぜか歩兵第16連隊だけは翌8日夜に出撃します。宮崎大佐の独断専行とも、例の辻政信参謀の差し金との説もありますが、経緯は不明のようです。
 まず、第1大隊を997高地へ差し向け、軽い戦闘だけで未明には高地を占領しました。
 奇襲成功と見た宮崎大佐は、9日未明、予備の第2大隊を東山高地へ出撃させます。第2大隊は前進開始しますが、昼前に東山に接近したところでソ連軍機械化部隊の反撃に遭い、苦戦に陥ります。宮崎大佐は残る第3大隊と配属砲兵大隊を増援して対抗させました。歩兵第30連隊にも救援出撃が命令され、前進しています。
 ソ連側は、守備隊のモンゴル軍第8騎兵師団の第23騎兵連隊を救うために、ソ連軍の第603狙撃兵連隊、第6戦車旅団の1個大隊(約50両)が駆けつけ、第57狙撃兵師団の砲兵連隊が火力支援しました。航空支援もあったようです。ソ連側指揮官らは997高地占領を904高地方面への包囲運動と考えていました。そのため日本軍の本格的越境攻撃ととらえて、本腰を入れた反撃に出たものと思います。
 日没近い19時頃にソ連側は歩兵、戦車の順に後退し戦闘は終わります。宮崎大佐は追撃を断念し、10日の夜明け前に第1大隊以外は攻撃発起点に後退しました。

 997高地は歩兵第16連隊が占領したまま推移し、16日の停戦を迎えることになります。ソ連側は一時997高地の奪還を考慮したのか、付近へ兵力集中を行ったようですが、すぐに中止したようです。ソ連従軍作家のシーモノフは「面白いものが見られる」と言われて出かけますが、作戦中止で引き上げる大量の戦車部隊を見ただけに終わっています。
 なお、13日夜にも大隊規模の戦闘があったとソ連側は主張しており、日本側の記録にも904高地付近で多数の照明弾や銃声が観測されていますが、実際に戦闘をしたという記録には接していません。(つづく
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