山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

スペイン内戦と海軍(第15回)

7.海上作戦の経過
 (4)ビスケー湾と言う選択


 バレアレス諸島奪回をあっさりと断念した共和政府中枢は、艦隊主力のビスケー湾派遣という戦略上の一手を打ち出します。

 この頃、ビスケー湾方面では、共和政府側のバスクVasco地方政権が孤立していました。北西部の国粋派支配地が、内陸で東へ突出していたため、海岸部のバスク~アストゥリアス地方一帯だけが取り残されてしまったのです。
 ただ、港湾都市ヒホンGijónで蜂起した国粋派部隊だけは、なんとか鎮圧に成功しています。国粋派の軽巡「セルベラ」が、ヒホンの救援に出動しましたが、無駄でした。蜂起部隊は『防衛は不可能。兵舎は炎焼中、敵は侵入を開始。頭上に火が!』との決別電を「セルベラ」に発して、8月16 日に全滅しました。地中海では、マリョルカ島の上陸作戦が始まった日です。
 国粋派は、東部の部隊をフランス国境へ向けて北上させます。フランスからバスク地方への陸上補給線を遮断するためです。整備が終わった国粋派海軍も、戦艦「エスパーニャ」、軽巡「セルベラ」、駆逐艦「ベラスコ」と現有戦力を全て投入して、激しい艦砲射撃を開始します。
 これに対し共和派は、捕虜を人質として艦砲射撃の中止を要求するなど、手段を選ばない抵抗をします(実際に処刑)。しかし、結局9月半ばまでにはイルンIrún、サン・セバスティアンSan Sebastiánが陥落。バスク地方は、陸海から完全に包囲されてしまいました。
spain_map2.png

 バスク地方は、海に山が迫る地形です。工業は比較的発達していましたが、農業生産力は低く、食料の多くは輸入に頼っていました。国境地帯の喪失と、海上包囲により、その生命線が絶たれる危機的事態となったのです。

 この時点でのビスケー湾方面の海軍力では、エル・フェロルを押さえた国粋派が圧倒的に優位でした。バスク軍も漁船を徴用して武装して独自の海軍力整備には努めていましたし、共和政府も、すでに潜水艦数隻を派遣してはいましたが。9月19日には、その共和派の潜水艦「B6」は、国粋派の駆逐艦「ベラスコ」などにより撃沈されてしまっています。
 共和派艦隊主力の派遣は、一気にこの状況を打開するはずでした。

 9月21日、戦艦「ハイメ1世」、軽巡「リベルタード」(旗艦:ブイサ少佐座乗)、同「セルバンテス」、駆逐艦6隻からなる共和派艦隊主力は、ビスケー湾をめざしマラガを出港します。軽巡「メンデス・ヌネス」と駆逐艦3隻だけが、海峡の防備に残されました。
 この時、低速の「ハイメ1世」も残留させようと言う見解もあったようですが、実行されませんでした。艦隊に同行したソ連顧問のクズネツォフ大佐は、このことを回顧録で悔やんでいます。(大佐は、この判断を無政府主義者のせいにしていますが、真相は?)
 心配されたジブラルタルの沿岸砲台や、エル・フェロルの部隊による妨害もなく、派遣艦隊は無事にバスク地方に到着できました。

 ところが、期待された艦隊は、ほとんど活躍することはありませんでした。
 食料輸入すらも途絶しかけていたバスク地方ですから、艦隊用の燃料の備蓄は、ほとんどありませんでした。弾薬は言うまでもありません。
 また、対空砲も戦闘機もほとんど配備されていなかったため、艦隊は一方的な空襲にさらされます。
 整備不良の「ハイメ1世」も頭痛の種でした。

 そして、派遣から10日ほど経った9月29日、決定的な事件が起きます。防備が手薄になったジブラルタル海峡を、国粋派巡洋艦部隊が急襲したのです。(エスパルテル岬沖海戦)
 狼狽した共和政府は、ビスケー湾作戦の中止を命じました。10月頭に黒海を発したソ連補給船の護衛が地中海で必要になってきていたことも、中止の要因でしょう。
 10月17日、燃料などをなんとか都合した共和派艦隊は、少数の駆逐艦・潜水艦を残して、なんら成すところなく帰路に就きました。
 以後、ビスケー湾では、残留艦隊と徴用漁船が苦しい戦いを強いられていくのです。(つづく

追記
 バレアレス諸島攻略の中止と、艦隊主力のビスケー湾派遣という戦略判断には、政府海空相プリエトの影響が大きいように思われます。もともと彼はバスク地方出身なので、故郷であるバスク地方の危機を重視したのではないかと、私は推測します。彼は、8月後半には、バスクの地方紙向けに、バレアレス諸島攻略作戦は時期尚早だったとのコメントを発表していました。
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