山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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ノモンハン捕虜の運命(第6回)

5.未帰還捕虜について
(1)NHK資料に拠る未帰還者数推定

 残る大きな謎は、捕虜交換で帰国せず、そのままソ連に残留した捕虜の存在です。従来、これも相当数に上ると推定され、例えば秦は400~500名と見るとバランスが取れると述べていました(資料8・214頁)。キリチェンコも400名と推定しているようです(注記1)。
 しかし、NHK資料に拠る捕虜総数から推定するに、満軍の集団投降者を除けば未帰還者の数もかなり少数だと考えます。純然たる捕虜総数227名から捕虜交換での帰還者191名を減じ、さらにNHK資料によると拘束中に少なくとも6名が死亡しているので、これを除いた生存未帰還者は30名になります(注記 2)。死亡者6名を全て日本兵とすると、未帰還のうち日本兵は最大で26名(満軍は4名)です。
 ジューコフ電文の内訳を用いれば、日本人はわずか3名、それ以外が26名、不明1名となります。

 NHK資料のうち特に未帰還者に関連しそうな部分として、(A)95人分の捕虜名簿中6人に付された「残す」という書き込み、(B)帰国拒否者6名という書き込み、(C)「(残った)あるいは(残された)」という22名という書き込みの3つがあります。

 まず(A)について、「返すべき人数は89人」という書き込みとあわせると、6名は帰国できなかったとも思えます。
 しかし、「残す」とされた捕虜のうち少なくとも2名は、日本側資料で無事に生還したことが確認できます(資料18)。おそらく外交交渉中の中間的な選別として不返還が検討されただけで、最終的には異なった処理がされているものと考えます。したがって(A)は無視します。

 次に(B)について、別に残された尋問記録に照らすと、この帰国拒否者6名は日本軍・満軍が3名ずつであったようです(資料1・222頁)。これらが未帰還であるのは確実と考えます。
 興味深いことに、帰還者の一人が日本軍による調査の中で、「タムスクに於て映画観覧中三名の日本兵は自分等は最早日本には返らぬと言ひ居たるが其後捕虜一行が『チタ』に移されし際一行中に加はり居らざりし」(資料26。原文カタカナ・旧字体)という報告をしています。この報告を受けて日本軍は「我が捕虜中三名の日本兵は『ソ』側共産党に加入せるものの如く不返還となれり。」と判断しています。
 帰還者報告の3名という数字は、ちょうどNHK資料の帰還拒否者数と一致します。また、報告に付された判断は、把握している未帰還者の総数は3名だけであるように読めます。もっとも、将校閲覧用の資料として一定の公開を前提に作成された文書で、文中の捕虜の人数は墨塗りになっている程度のもののため、未帰還者数の総数を正直に記載していない可能性も有ります。
 さらに、この3名という数値は、ジューコフ電文を基にした未帰還日本兵数の推定とも一致します。
 これら3つの数値の一致からすると、未帰還日本兵は3名だけであるという仮説が成り立ちます。

 ただ、未帰還日本兵は3名だけであるとの仮説は、まだ検証が不十分であると考えます。前提となるジューコフ電文の捕虜内訳について、1の(3)で既述のように日系軍官や朝鮮特別志願兵の問題があります。後述するシベリア抑留者などとの遭遇事例の発生件数と比しても、さすがに少なすぎるように思います。(つづく


注記
1.捕虜総数597名以上とする前出のキリチェンコ推定によると、うち400名が残留したとするようです(資料27・上202頁)。主にカザフスタンのコルホーズに送られ、1991年当時も100名余りが生存していたとします。これを受けて保阪は、執筆時(1999年頃)には生存者10名足らずになっているのではないかと述べています。
 現存者数にまで触れた点では信憑性があるとも思えますが、前述のように根拠史料が不明のため、評価を保留します。

2.ワルターノフによると、6月下旬から7月初旬に森本大尉以下6名の航空兵が捕虜になった後に自決しているといいます(資料8・155頁)。6名の死者というのはこの方々だと考えられます。
 なお、うち森本大尉に関しては、6月末に他の捕虜が身元確認をしたと証言しており、目立った外傷が無いことから自決ではないかと述べています(資料 22・上96頁)。謀略宣伝の協力者になって停戦直後に自決したという説もあるようですが、日露双方の情報の一致からすると6月末に自決したとみるのが妥当と思います。
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