山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

リーフ共和国興亡(第8回)

6.共和国対共和国
 西領モロッコという言い方でもわかるとおり、現在のモロッコにあたる地域は、スペイン領ともう一つに分かれていました。
 そのもう一方の宗主国であるフランス第三共和国は、スペイン領の戦いを、これまで静観していました。仏領モロッコの平定は、すでにおおむね完了していたため、あせることはなかったのです。

 しかし、1924年頃、リーフ共和国の勢力がスペイン領西部にまで及ぶようになると、ついにフランスも行動を開始しました。リーフ軍のあまりの勢いに、連鎖的に仏領内でも抵抗運動が拡大することを恐れたためでしょう。スペイン領西部には、仏領モロッコに続く街道がありました。
 1924年5月、フランスのモロッコ植民地軍64000人のうち、12000人が、国境を越えスペイン領内に侵入し拠点を設置します。スペイン軍の方式同様に、街道沿いには多数の駐屯地が設営されます。
 フランス軍の狙いは、直接対決によるリーフ共和国打倒ではなかったと思われます。兵力規模としても小さく、一定以上の前進もしませんでした。おそらく、西領からの接触と仏領からの逃亡を阻止することが、主な狙いだったと考えます。仏領にも小規模な抵抗運動は存在しており、そのゲリラが、安全な西領へ逃げ込むこんでしまうことは、これ以前から問題になっていました。

 これに対し、リーフ共和国も、すぐには戦いを挑みはしませんでした。フランス政府に抗議をするだけで、まだ攻撃はしません。もちろん、そんな抗議は通じなかったのですが。
 フランス軍の質は、スペイン軍の質をはるかに上回っていると予想されました。アブデルクリムは、二正面作戦の愚かさを十分に理解していました。
 ただ、いつまでもフランス軍を放って置くわけにもいかない事情がありました。フランス軍の進駐したワルハWargha渓谷は、ちょうどリーフ軍の補給路にも当たっていました。それに、弱腰の姿勢はアブデルクリムの求心力を低下させ、連合部族の離反を招く虞もあります。
 シャウエン攻略が完了し冬も過ぎた1925年4月、アブデルクリムは決断を下します。リーフ軍精鋭4000人を率い、ワルハ渓谷へ出撃します。フランスに対する開戦でした。
 おそらく、アブデルクリムの狙いは、短期決戦にありました。一挙にフランス軍を撃破しつつフランス領に侵攻、仏領モロッコの首都フェズを押さえることで、講和に持ち込もうとしたものと思います。あるいは、仏領モロッコ内の一斉蜂起に期待した可能性もありますが。

 対仏戦においても、リーフ軍は快進撃を見せます。
 ワルハ渓谷の駐屯地を陥落させたのを皮切りに、駐屯地を次々と制圧していきます。フランス軍は、3000人以上の死傷者を出して各地で敗走しました。拠点を孤立化させ攻略する戦術を、リーフ軍は完全に身に着けていました。
 6月までに66か所の仏軍駐屯地のうち9か所を陥落させ、さらに30か所の放棄に追い込んだリーフ軍は、仏領内の部族の協力を得ながら進み、首都フェズに20マイルまで到達します。

 けれど、ここまでがリーフ軍の攻勢限界でした。
 思いがけない敗北に衝撃を受けながらも、フランス政府は和平交渉には応じませんでした。代わりに、スペインとの間で交渉を行い、共同作戦協定を締結します。
 徹底した武力鎮圧を決意したフランスは、フェズに次々と兵力を集中させます。開発の遅れたスペイン領と違い、仏領内には鉄道が敷設されていました。内線作戦の効果の前に、リーフ軍の進撃は阻止されたのです。
 さらにフランスは、本国軍を動員します。投入兵力は、ライン川方面から抽出された70個大隊(10万人)をはじめ、実に16万人以上。指揮を執るのは、第一次世界大戦の英雄アンリ・フィリップ・ペタンHenri Philippe Petain元帥でした。
 圧倒的な兵力により、フランス軍の反撃が始まります。(第9回へ続く


追記
 フランス領に侵攻し、最大の勢力になった頃の1925年8月17日、アブド・アル=クリムは、米「TIME」誌の表紙を飾っています。日本の田代某氏が表紙を飾りそうになったことでも知られる、あの情報誌です。
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