山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top  このエントリーをはてなブックマークに追加

間に合わなかった兵器―もう一つの第二次世界大戦

徳田八郎衛「間に合わなかった兵器―もう一つの第二次世界大戦」
                         (光人社NF文庫、2001年)

間に合わなかった兵器―もう一つの第二次世界大戦 (光人社NF文庫)総合評価:★★★★★
 太平洋戦争において日本は兵器の物量だけによって負けたのではない。兵器の質においても、粗末な設計で低品質なものだったのである。日本の歩兵には、連合国軍の戦車に対抗できる対戦車砲やロケット弾も無く、兵士たちは爆薬を抱えて肉薄攻撃するしかなかった。本土防空網も不完全で、バトル・オブ・ジャパンは実現できなかった。
 では、新型の対戦車兵器やレーダーは、どうして「間に合わなかった兵器」となったのか。その背景には、単に工業水準の問題だけではなく、軍関係者の科学技術への無理解、技術者の現場への無関心、計画的でない開発といった失敗要因があったのだ。
 枢軸国の兵器開発の失敗事情を、自衛隊で装備開発に携わってきた元一佐が解き明かす。
 タイトルとサブタイトルだけを見た時は、未完成の超兵器、戦後に米軍が驚嘆した日本軍驚異のメカニック的なノリの本なのかと思ったのですが、内容は全く逆といってよいものでした。著者は防衛大学校の教授時代に、学生の間に「アイデアだけは日本が先行していた」というような過大評価が見られたことに危機感を覚えて、本書を執筆したと言います。

 第1章では日本の戦車と対戦車兵器、第2章と第3章では日本の電子兵器、第4章ではドイツのジェット戦闘機をそれぞれ間に合わなかった兵器として取り上げ、第5章では間に合った例としてソ連の兵器を、第6章で総論的なことを解説しています。
 章レベルの大まかな対象設定は比較的あり触れていますが、より細かく見ていくと独自の着眼が多くて興味深いです。例えば、日本の戦車開発経過は他にも解説した本がありますが、速射砲やロケット弾など対戦車兵器についてまとまった本は珍しいと思います。電子兵器でも、陸海軍のレーダーについて詳しいだけでなく、逆探やシステムとしての防空などが対象に含まれています。日本海軍の逆探は、他の本では比較的に高い評価を与えられているものですが、本書を読んでいくとお寒い実態が見えてきます。

 著者が技術畑の人間で確かな基礎知識があり、しかも防衛関係者という資料に触れやすい立場なので、優れた参考文献を豊富に用いて執筆されていると思います。そのうえ、あとがきによると、旧軍のレーダー関係者などに人脈があり、そうした筋からも貴重な一次情報を得て活用しているようです。

 読んだ感想ですが、第6章で出てくる日本製バネの低質さや、第5章で出てくるソ連のエンジンの異常な優秀さなど、基礎的な工業といったいかんともしがたい部分で差があったのは確かだと思いました。
 ただ、工業レベル差に限らない、解決可能だった問題点があったというのが、見事にあぶり出されていたとも思います。例えば、ジェット爆撃機に固執したヒトラーなど上層部の科学技術への無理解に加え、技術者側でも実用製品を作るという意識に欠けていたこと。技術的に高度な最善を狙いすぎ、間に合うはずの第三善が軽視され、研究者が使用現場を見に行くことも少ない。用兵側と研究側を調整できる、技術に理解のある上級者が少なかったというのも痛いことです。
 科学技術というのは積み重ねが必要だというのが、教訓として感じたことです。レーダー開発を軽視しておきながら、戦場で劣勢になってからあわてても、もう間に合いませんでした。戦後になって開花した産業技術は戦前戦中の下地があってこそと、あとがきで著者が言っているのも、これを逆に説いたものでしょう。研究関係の予算が大幅に削られるらしい日本国民としては、耳が痛い話です。

総合評価:★★★★★(足りぬ足りぬは工夫が足りぬにも一分の理)
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://yamanekobunko.blog52.fc2.com/tb.php/261-b9f27835
プロフィール

山猫男爵

Author:山猫男爵
ここは「塹壕文庫」「山猫文庫第二壕」に続いて三代目のブログになります。
連絡したいことがある方は、記事のコメント欄か、サイドバー下方のメールフォーム、あるいはツイッターから、お気軽にどうぞ。
Twitter:baron_yamaneko

最新記事
カテゴリ
検索フォーム
参加企画
にほんブログ村 歴史ブログ 近代・現代史(日本史)へ
にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ
リンク
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール(不要ならそのまま):
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。