山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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ノモンハンの戦い(シーシキン文書)

シーシキン他「ノモンハンの戦い」
  田中克彦(編訳)  (岩波現代文庫、2006年)

ノモンハンの戦い (岩波現代文庫)総合評価:★★★★☆
 ノモンハン事件についてのソ連側資料として、戦史叢書などでも利用されてきた通称「シースキン資料」こと「一九三九年のハルハ河畔における赤軍の戦闘行動」を、一般読者向けに全文翻訳して出版した表題作。さらに、ソ連側の従軍記者としてノモンハン事件を見たコンスタンチン・シーモノフによる回想録「ハルハ河の回想」も抄録。
 日本の帝国主義者によってノモンハン事件はどのように起こされ、いかにして英雄ジューコフ率いる赤軍とモンゴル人民がその野望を打ち砕いたのかを解き明かす、ソ連側の公式的かつ古典的な説明の基礎文献。
 シーシキン資料は前文で90ページの短いものです。著者はソ連軍のS・N・シーシキン大佐。底本は1946年に出された初版の極めて古いもの。訳者の田中によると1954年に2版が出ているのですが、改訂規模などは不明だそうです。
 「ソビエト大百科事典」の参考資料にもなっており、ジューコフ回想録などと並ぶソ連側視点のノモンハン事件戦史の基礎文献と言えます。今でも、日本語で入手しやすいソ連側文献として重要でしょう。
 問題は内容の信頼性で、日本側記録などと照合しつつ読むべきものではありましょう。古い本ゆえの日本側事情についての誤認、事実上の公刊戦史という性格上の偏り・虚偽は否めません。例えば日本側の兵力を過大に記すことが多く、応急派兵で低充足状態の第23師団を完全充足であるとしたり、第7師団の一部である第14歩兵旅団を別個の部隊であるかのように書いたりしています。軍事衝突の原因を田中上奏文(田中メモランダム)から説き起こし、日独が完全な連携行動だったかのように書くなど、日本人から見ると無茶だなと思える点があります。
 挿入されている地図が比較的に豊富ですが、いかんせん新書サイズなので小さいです。ソ連製地図資料としてはコロミーエツ「ノモンハン戦車戦」のほうが版が大きくて便利でしょう。

 おまけのコンスタンチン・シーモノフ「ハルハ河の回想」はノモンハン関連部だけの抄録で、全101ページのうちの2/3弱が載っています。底本の刊行年は1969年で、執筆時期は1948年から1968年とあり、田中解説によれば1948年執筆のものを出版前に手直ししたようです。
 ノモンハン事件では6月にソ連側の作家の従軍が始まっていますが、著者のシーモノフは8月下旬になって到着した後発組です。すでに主要戦闘が終わったソ連側の8月攻勢終盤で、掃討戦と停戦交渉、戦場掃除、捕虜交換が中心になります。死体や負傷兵、遺留品だらけの最前線の惨状が記され、華々しい戦闘こそ少ないものの、日本側代表団の様子も出てきて興味深いです。ソ連兵の様子が細かく描かれていて、敵も人間というのがよくわかります。

 訳者はノモンハン関係ではおなじみの田中克彦。訳者による「あとがき」だけでもそれなりおもしろいものがあります。内容は言語学者らしく、地名などについて独自の考察など。
 訳者は、ソ連軍でお決まりの「狙撃兵」という言葉を知らないなど軍事知識がまるっきり欠けているのが残念です。しかし、丁寧に調べてくれたようで誤訳らしきものは少なめ。ちょっとひっかかったのは34頁の兵力比較の部分で、「銃剣」「軍刀」となっていますが、これは武器の数ではなく「歩兵」「騎兵」の兵数の意味でしょう。「軍刀」ではなく「刀数」が定訳か。

総合評価:★★★★☆(自分で検証してみようという方、素顔のソ連兵を見たい方へ)
Comment
2010.09.13 Mon 20:34  |  Hikasuke #EPuAl4EM
>「銃剣」「軍刀」となっていますが、これは武器の数ではなく「歩兵」「騎兵」の兵数の意味でしょう。「軍刀」ではなく「刀数」が定訳か。
英語でいうriflesとsabresですか?
infantryとはニュアンスがちがうのかなと思ってriflesを「小銃」と直訳してしまうのですが、「歩兵」で差し支えないのでしょうか? 

riflesやsabresは近代以前の表現の名残りなのではないかとも考えてしまいます。
  [URL] [Edit]
2010.09.15 Wed 00:51  |  山猫男爵 #-
原文を見たわけではないのですが、おそらく英語のriflesとsabresに相当する言葉だと思います。
近代以前の名残というのはありそうな話。

歩兵・infantryとの関係ですが、たしかに厳密に言うと怪しいですね。
歩兵部隊の人員総数・戦闘員総数ではなくて、小銃手の意味の可能性があるか。
うかつに人様につっこめる身分ではありませんでした(汗)
  [URL] [Edit]







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