山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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戦史叢書の改訂版のこと

 昨日の記事で「戦史叢書」について改訂版が出ると書いたのですが、その後に気になって防衛研究所の公開情報を確認したところ、あまり期待しすぎないほうが良いみたいです。

 改訂版がでるという情報のソースとしては、2003年8月12日の読売新聞の報道があります。読売新聞によれば、戦後の安全保障なども盛り込んだ全面改訂版をCD-ROMの形で出すといい、「約10年後」(当時。つまり2013年頃)に1巻目を出したいとなっていました。

 ところが、当の防衛省防衛研究所戦史部(今の「戦史叢書」を出した時には防衛庁防衛研修所戦史室だった部署)は、この読売報道よりあとの時期に、戦史叢書の改訂版や要約版の発行について、戦史部の能力・組織・時間的に多くの困難があるとしています。これは、2007年(平成19年)に戦史部主催で行われた戦争史研究国際フォーラムにおいて、加賀谷貞司戦史部長が、議長総括の中で述べているものです(注1)。
 議長総括によると、戦史叢書については、旧軍人が執筆したことによる客観性・学術性への疑問、陸海軍別になってしまった記述(特に戦争指導関係)などの問題点が指摘され、改訂版や要約版が要望されているとします。しかし、現在の戦史部の体制では、教育や国際交流などの任務もあることをふまえると、対応は非常に困難だといいます。かつての編纂はのべ100名以上の研究員で、しかもほとんどが従軍経験者という充実した態勢で、20年以上をかけて行ったものだそうです(注2)。
 その代わりに現体制で可能なこととして、この平成19年度国際フォーラムのテーマを「太平洋戦争の新視点-戦争指導・軍政・捕虜-」と設定したというのです。新たな視点から新史料も駆使して太平洋戦争を再検討することが有意義であると説明されています。

 また、防衛研究所長の出した通達(注3)でも、戦史叢書の補完も触れられてはいるものの、具体的な改訂版発行の話までにはなっていません。現在の防衛政策に関係する戦史研究や、緊急性のある史料収集(関係者が生きているうちにオーラルヒストリーを聴取等)が優先事項となっており、太平洋戦史叢書はリソースの関係で基本的に後回しという感じです。
 なお、この通達の発出時期は平成15年7月で、冒頭の読売報道の少し前にあたり、これが記事の元ネタではないでしょうか。通達の内容を知った読売新聞記者が取材して、
 読売「『出版形態や体裁』とはなんぞや?」
 防衛「例えばCD-ROMの利用が考えられる。」
という様なやりとりがあったのかなと想像します。通達には、直接に戦史叢書の話ではないものの、戦後の現代史の編纂も必要という記述があり、読売報道に言う「戦後の安全保障なども盛り込」むという話によく似ています。この想像が当たっているとすると、残念ながら読売報道は勇み足だったということになりそうです。

 ただ、読売の早とちりだとしても、まだ希望を捨ててしまうには早いでしょう。早いと信じたい。
 加賀谷レポートによると、平成19年度からの新事業として海外史料の収集が始まっているそうで、旧日本軍の散逸史料や連合国側の戦争指導関連史料が調査されているといいます。連合艦隊の戦時作戦日誌のうち開戦直後の欠落部分がメリーランド大学で発見されたという話がありましたが、実はこの事前調査で得た成果だったとのこと。
 「ソースは確実だが明かせない系」と称し、密かに作業は進められてるぞという2009年1月(?)の2ちゃんねるへの書き込みもあります。そんなもの信用出来るかと言えばそのとおりで、逆に、関係者からそういう計画はないと聞いたと言う話もあったりします。
 いずれにしろ、なんらかの形で新史料に基づく研究成果は発表されるはずです。前述の通達にも補完計画が一応は挙げられているわけです。たぶん、読売新聞の言うような全面改訂版というよりは、補遺ないし小規模な「続・戦史叢書」のような形に収まるのではないかと思います。そのくらいならなんとかなるはず、と漠然たる希望的観測であります。
 なお、個人的な願望としては、とりあえず内容は旧版のままでも構わないので、PDFなど語句検索可能な形で電子化して一般向け公開して欲しいです。もちろん、逐次作成したという「正誤表」や「引用集」、おそらく今は部内専用のもの、を加えていただけると非常にうれしいのは言うまでもありません。まあ、戦史叢書みたいな詳細な戦史を電子化しても、喜ぶのはおおかた軍事オタクどもでしょうから、あまり優先順位は高くないのだろうなあ(注4)。


追記
 戦史叢書の電子化は、国立国会図書館の電子化事業のほうに期待した方がいいのかもと、後から思いました。
 あと昭和館で、すでに電子テキスト化されてましたね。注4の部隊略歴と同じく、昭和館内の端末から使えます。一回使おうとしたらフリーズして以来、使ったことが無いので忘れていました。印刷媒体の現物が開架図書で全部揃っているので、そちらで間に合ってしまう面があり。

 hikasukeさんが教えて下さったところによると、デジタル化と3分冊程度の概説書編集が進んでいるそうです。デジタル化については、とりあえず研究者や防衛研究所の史料閲覧室用に試行運用をはじめるとのこと。概説書のほうは独立回復までの時期を扱うそうで、停戦後のあれこれが出てくるのかと楽しみです。詳しくはhikasukeさんのブログ「鋼鉄の嵐の中で」をご覧ください。(2010年6月18日追記)


注記
1 加賀谷貞司「太平洋戦争の新視点-戦争指導・軍政・捕虜-」(平成19年度戦争史研究国際フォーラム)

2 ちなみに現在の戦史部所属の研究者は、公式サイトに掲載されている名簿によると29名。

3 「戦史史料編さんに関する指針について」(平成15年7月22日発、平成19年1月9日改正)

4 軍事オタクが喜ぶ以外には、従軍経験者やご遺族が、所属部隊のことを自分でも調査しやすくなるということはありそうです。部隊名や通称号で検索できれば、だいぶ容易になるはず。なお、復員時にまとめた部隊略歴はすでに電子化されていまして、昭和館で一般公開されて非常に便利です。
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