山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top  このエントリーをはてなブックマークに追加

機雷掃海戦

隈部五夫「機雷掃海戦―第一五四号海防艦長奮戦記」
              (光人社NF文庫、2008年)

機雷掃海戦―第一五四号海防艦長奮戦記 (光人社NF文庫)総合評価:★★★★☆
 神戸高等商船学校出身の予備士官の回想。「機雷掃海戦―海軍予備士官の挽歌」(成山堂書店、1987年)を文庫化したもの。
 対米開戦に備えて召集された著者は、第33掃海隊所属の特設掃海艇「第2号朝日丸」の艇長に任命される。太平洋戦争勃発後は、関門海峡日本海側の防備任務で平穏な日々を送った。
 1944年末、戦況悪化のためついに本土にも戦火が及ぶなか、著者は新編の第7艦隊所属「第154号海防艦」海防艦長へと転属になる。新たな任務は、同じ関門海峡防備でも、B-29による機雷封鎖「飢餓作戦」に対抗する危険な掃海であった。必死の掃海作業もむなしく、新型感応機雷により次々と艦船が撃沈されていく。
 そして、ついに敗戦。「第154号海防艦」は、海軍最後の任務として防御機雷堰の掃海作戦を果たすのであった。
 著者が終戦直後からまとめはじめた「機雷戦」という数冊の原稿をもとに、1983年頃からの文献調査を加えて執筆した本です。内容的に重複する記述が数か所出てくるのは、もともとの原稿が数冊に分かれていたからとのこと。比較的最近になって出版された本ですが、早い時期に作成されたメモをもとにしたものなので、信頼性は高いものと思われます。

 著者は、海軍予備員、いわゆる海軍予備士官という立場です。海軍士官と言っても兵学校を出ておらず、高等商船学校卒業の商船士官で、戦時に召集されて軍人として勤務します。著者は、神戸高等商船学校卒業後、大阪商船で4年、東亜海運で2年勤務したところで1941年9月に応召となっています。
 正規の軍事教育をほとんど受けておらず、高等商船学校の課程修了後に、海軍砲術学校で6か月の短期教育を受けただけでした。召集後も数日間だけ訓話を聞いた程度で、いきなり艇長などとして前線配置という具合です。
 そのため、生粋の海軍士官とは違った感覚が垣間見られ、興味深いです。著者の場合、直接の戦闘経験がほとんどないためもあるでしょうが、兵器の操作などよりも、艦艇の航海術について詳しく触れています。単軸推進の船の操縦の難しさや、接岸時や荒天下での錨の使用法など。係留時の操船に関する海軍ルールを守らなかったことから、司令の海軍士官と議論になっても、断固として自説の合理性を説く辺り、船乗りとしての自信がうかがわれます。

 日本海軍の対機雷戦の現場がわかる珍しい本でもあります。特設掃海艇時代は、艦種とは裏腹に対潜哨戒が中心で、わずかに掃海訓練を受けた程度です。海防艦長転任後は、戦時中は空中投下される機雷の監視と実際に掃海作業をする漁船や大発の支援に従事し、戦後は日本海軍が防護用に敷設した係維式機雷の除去を行っています。海防艦長着任直後は、部下の多くが経験不足のため、自ら掃海舟艇に移乗して作業を指揮するというフィクションばりの活躍で驚きました。
 著者は前述のように予備士官なので兵器には詳しくないですが、掃海具に関しては資料調査も踏まえて、解説されています。各種掃海具や機雷の図説も付いています。2隻の船で曳航する対艦式掃海具の使用法について、一方の船が先行して掃海具を流し、もう一方が反対の端を拾って追いつき横並びになるなど、実際に運用された方でないと分かりにくい細かな描写が参考になりました。
 掃海戦での成果については、連日のように作業を行っていたものの、終戦までに著者が処分できた感応機雷は1発だけという苦しい状況だったようです。実際に触雷する艦船が出た個所を記録して、そこだけは機雷「処分」済みの貴重な安全水域として通行に使用できたという話には、暗澹たる気分にさせられます。

総合評価:★★★★☆(海軍予備員や対機雷戦の現場感覚が分かる良書)
Comment
2011.11.22 Tue 20:20  |  菊池 #l9065ZhE
私はかなり各戦記物を読んでいますが、この本は未読なので、大変興味深く書評を拝見。商戦士官=海軍予備士官たちのご苦労を垣間見ることができました。戦争末期の昭和20年5月岡山県玉野ドックから門司回航の際、先行船が次々と触雷するも本船(向日丸)は不思議に門司~釜山~羅津~舞鶴に敗戦二日後に帰還することができました。
 それから拙Webリンク賜り多謝です。相互リンクを目下愚息(管理人代行)に手配中です。
機雷掃海戦  [URL] [Edit]
2011.11.23 Wed 23:15  |  山猫男爵 #-
宛:菊池さま
諸般の事情で忙しく、お返事が遅くなり申し訳ありませんでした。
紹介した本に興味をもっていただけて嬉しく思います。

「向日丸」の奮戦については、海防艦顕彰会の方が書かれた文章の中で、撃沈された82号海防艦を勇敢機敏に救助したと書かれているのを読んだことがあります。
実際に乗っておられた方と、こうして交流させていただく機会を持つことができて、とても光栄です。
Re: 機雷掃海戦  [URL] [Edit]







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://yamanekobunko.blog52.fc2.com/tb.php/312-07170113
機雷掃海戦―第一五四号海防艦長奮戦記 (光人社NF文庫)光人社 隈部 五夫 Amazonアソシエイト by 商船学校を出た予備仕官の著者は海防艦の艦長となる 南方への出撃を命じられるが建造時のトラブルで断念し 関門海峡の掃海が任務になった。あの関門海峡である もとより平時でも潮流は速いわ航路は狭いわで難所なのに 瀬戸内しか使える航路がなくなったので船舶は集中する そこに米軍が機... 2014.01.30 02:08
プロフィール

山猫男爵

Author:山猫男爵
ここは「塹壕文庫」「山猫文庫第二壕」に続いて三代目のブログになります。
連絡したいことがある方は、記事のコメント欄か、サイドバー下方のメールフォーム、あるいはツイッターから、お気軽にどうぞ。
Twitter:baron_yamaneko

最新記事
カテゴリ
検索フォーム
参加企画
にほんブログ村 歴史ブログ 近代・現代史(日本史)へ
にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ
リンク
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール(不要ならそのまま):
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。