山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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夏のロケット

 小説のほう。あさりよしとおの漫画「なつのロケット」については別記事を

川端裕人「夏のロケット」
              (文藝春秋,1998)

夏のロケット (文春文庫)総合評価:★★★☆☆
 「ぼく」こと高野は、高校時代、天文部ロケット班の一人として、密かにロケット実験を繰り返していた。目標は火星への有人飛行。
 あれから十数年、ぼくは新聞社のさえない科学部記者。ある日、社会部から応援要請を受け、見せられたのはミサイルテロ未遂事件の現場写真。そこに写っていた残骸には、見覚えのあるロケットの部品が混じっていた。
 事件を追ううち、ぼくは、自分以外の旧ロケット班が集結して「陰謀」を企てていることに気付くのだが……。
 以前取り上げた「なつのロケット」につながっていく、ロケッティア(ロケット狂)の「青春」物語です。
 とはいっても、こちらの主人公たちは30過ぎの「少年」たち。高野以外の4人の旧ロケット班は、今はそれぞれ、宇宙開発事業団、材料工学の第一人者、一流商社員、超有名アーティストと全く別の道で成功しているはずでした。実際には、それぞれなりに苦悩と野望を内に秘め、とある陰謀を進めていたのですが。

 さて、結論から言うと、個人的には、小説としてはいまいち期待はずれというのが正直な感想です。
 だいそれているのを承知の上で言うと、次の3点に大きな原因があるように思います。(1)主人公が終始傍観者であること。(2)要素を詰め込みすぎたこと。 (3)技術的情報へのこだわり。

(1)傍観者であったこと。
 仲間はずれと言ってもいいかもしれません。
 本書は、完全に「ぼく」の視点から描かれていきます。したがって、必然的に読者も「ぼく」の目線を追うわけです。
 ところが、陰謀が高野以外の4人で計画されたように、基本的に高野は物語の中心には関わってきません。陰謀の目的も最後になるまで知らないまま、周囲の指示に従って、時にだまされて、ただ動いていくだけです。
 ミステリーとしての形式を用いる以上、探偵役が答を知らないのは当然といえばそうなのですが、かなりの読者は、後半に至る前に答には気付いてしまうような気がするのです。その結果、読者は答がわかっているのに、その分身を務める高野はずっとうろうろというギャップが生じ、少々醒めてしまったように思います。作者にしてみると、下手に感情移入して夢見てばかりの読者が、痛い目にあうというので狙い通りなのかもしれませんが。
 もちろん、途中でいくつか見せ場は用意されているのですが、どうも取って付けたような印象をぬぐえません。エピローグでの高野の思いも同様で、妙に唐突に思えます。一番根本的な有人火星飛行というアイディアの部分では、ずっと関わっていたといえば、その通りなのですが。

(2)詰め込みすぎ。
 この物語の要素を考えてみると、宇宙ロケットという夢以外に、科学の負の部分、自己実現、成長、恋愛、推理、迫る警察の緊迫感、さらには作者の宇宙開発論といったいろいろなものが詰め込まれすぎているように感じます。
 作者として主張したいことがあったり、エンターテイメントとしての要請があったりというのはわからないでもないのですが、もうすこし絞り込んで、物語自体も短くするとまとまりが出たように思えます。劇中の言い方を借りれば『よりタフでより簡単に』。
 科学の負の部分という点で、日本刀のエピソードは面白かったのですけどね。

(3)技術的情報へのこだわり。
 作中、技術的部分・科学史的部分の記述が相当に見られます。実は、作者自身が元科学記者だったこともあり、そうした部分はそれ自体わかりやすく、かつ興味深いものになっています。ロケットの現実性の部分でも、説得力を増しているでしょう。
 しかし、これが仇となって、作品全体のリアリティのバランスが崩れているように思うのです。これは、作者の小説家としての筆力の問題でもあるのでしょうが、科学面や記者としての体験が生かされただろう場面はリアルな反面、それ以外の部分の非現実性が目立ってしまったような気がします。やや素人くさい文章展開の中に、妙にリアルなロシア宇宙開発事情の描写が入ると浮くのです。
 未読ですが、川端氏のノンフィクション作品なら、さぞかし面白いだろうとは想像されるのですが。

総合評価:★★★☆☆(一番面白かった部分が、劇中記事で紹介される現実の宇宙開発史。)
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