山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

八月の博物館

 時々拝見している「どことなくなんとなく」というブログがあります。書かれているkasa氏は、理系の研究者さんのようです。くどくなくて読み心地の良い文章なので、好きです。
 そのkasa氏が、最近、アマゾンのアフィリエイトを始めて、記事に本の表紙画像が載るようになりました。
 見ているとうらやましくなってしまったので、私も真似してみることにいたしました。


瀬名秀明「八月の博物館」
              (角川文庫,2003年)

八月の博物館 (角川文庫)総合評価:★★★★★
 『小学校最後の夏休み』、見知らぬ博物館に入り込んだトオルは、美宇という少女に出会う。
 美宇に導かれて着いた先には、19世紀のパリ万博が「展示」されていた。万博会場にいたマリエットと名乗る考古学者は、石像の牛を見せて、言う。『きみらは、これを見に来たはずだ。』
 なぜ、マリエットは、トオルのことを知っているのか。美宇の言う『ミュージアムのミュージアム』の目的とは。そして、時折文中に現れる「私」という作家とトオルの関係は。
 「パラサイト・イヴ」の作者として知られるSF作家、瀬名氏の作品です。
 割合にハードSF調だった「パラサイト・イヴ」とは一転して、どこまでも懐かしい夏休みの頃を舞台とした、不思議な物語に仕上がっています。
 物語の軸は、主人公トオルが美宇と「博物館」を通してする冒険と、博物館の外での同級生との夏休み、それから19世紀の考古学者マリエットのエジプト発掘譚を中心に進んでいきます。トオルが同級生と過ごすパートは、細かな描写が生き生きとしていて、その頃の教室の匂いまで蘇ってくる気がします。

 なぜ19世紀の人物が現代のトオルと出会うことになるかと言うと、この「博物館」はある種のタイムマシンだったのです。
 その原理が、なかなか素敵だと思いました。行きたい場所を正確に再現して、本物と区別できない程度に達すると、そこは本物の目的地そのものになってしまうというのです。観測できない、認識できないものは存在しない(と考える)というルールが、科学についてあったと思いますが、それと同じ根っこですね。

 さて、本作品の問題は、上記2ないし3つのパート以外に存在する、「作家」のパートをどう捉えるかです。
 作家「私」は、「理系」作家とされることに苦しみ、また小説の作為性について悩みます。悩みながら、小説を書いています。このうち後者の悩みは、ほかの登場人物に関係しても現れてきます。例えば、博物館の館長は、『作家は見せ方に注意しなきゃならない。博物館と同じようにね』とトオルに言っています。
 この辺の作者の悩み風の部分を煩いと感じるかどうかが、好みの分かれ目となるかと思います。この作家パートを削除、ないしトオルとの関係をもっとシンプルにしたほうが、すっきりはするかもしれません。
 でも、私は、こうした部分も含めて、とても好きな作品です。大学受験の頃に、受験勉強をサボって高校の図書室で読んでいたときは、神経を直に逆撫でされるような嫌悪感一歩手前の快感を感じました。
 そういう意味で、どなたの口にも合うかどうかは疑問ですが、ぜひとも試して欲しい一冊です。

総合評価:★★★★★(しーんし淑女諸君!)
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