山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

妖怪の民俗学

 奇怪な事件があるものです。
 『新宿駅で2人が尻を切られる』(毎日新聞)
 ようするにただの通り魔なのですが、「尻」というタイトルにびっくりしてしまいました。昔なら、さしずめカマイタチか、新種の妖怪尻裂き婆の仕業にでもなったところでしょうか。
 被害者もまさか、駅のホームでそんな目にあうとは思ってもみなかっただろうと思います。いつも使っている駅なのに、どこで異空間との境を越えてしまったのか。どうやら、白線の内側に下がるだけでは、身を守りきれないようです。


宮田登「妖怪の民俗学-日本の見えない空間-」
                          (ちくま学芸文庫,2002)

妖怪の民俗学 (ちくま学芸文庫)総合評価:★★★★★
 妖怪とは何モノなのかを、井上円了、柳田国男という先人の研究の再検討や、出現する場所、社会背景への考察を通して探る一冊。キーワードは、「若い女性」「たそがれ時」「都市の周辺」。
 1985年に岩波書店より出版されたものの文庫版。

 妖怪図鑑のような内容を期待していると少しがっかりするかもしれません。本書にも、口裂け女、枕返し、髪切り虫などいくつかの怪談・妖怪が紹介はされますが、それらは、あくまで検討材料の一つとして出てくるだけですので。
 しかし、妖怪研究としてみた場合、非常に興味深いものと思います。
 妖怪を含め、日本の民俗学というと、これまでは柳田国男という存在にあまりにもとらわれすぎていたように、私は思っています。確かに、彼の存在は偉大です。ですが、それゆえに、以後の研究者は個別的な小さな範囲に留まってしまい、大きな視点での検討というのは、柳田の説に頼りきってきたように思われるのです。もちろん、途絶えつつある伝承を収集整理して、保存していくことは、重要な作業だとは思うのですが……。
 その点、本書は違います。井上、そして柳田という2人の研究を認識しつつも、それらの一方に組することなく、妖怪を根本的な部分から検討しなおします。
 妖怪の時的(例:たそがれ時)・地理的(例:辻・橋)境界という視点は、柳田の妖怪分類から発展したものでしょう。ただ、そのままではなく、古今の事例を材料として、そうした妖怪の「場」のルールの背後にある人間心理を見据えようとしていきます。科学的な検討と、人間心理への考察と言う姿勢は、柳田が批判した井上のスタイルに近いものといえます。

 残念ながら、著者の宮田氏は2000年に亡くなってしまわれました。その後を継ぐ民俗学者がいるのか、注視したいと思います。

総合評価:★★★★★(番町皿屋敷、狸ばやしから、口裂け女、ゴジラまで。「場」を切り口に鋭く迫る。)
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