山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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サハラに舞う羽根

 テレビ東京の映画番組「木曜洋画劇場」は、妙に面白い作品を放送してくれることがあります。期待しないで見ていると特に。
 だいぶ前ですが、何の気なしにチャンネルを回したら、砂漠を進軍する英軍ラクダ部隊が映って、見入ってしまいました。真っ赤な制服、白いヘルメットの兵士が、ラッパに従って方陣を組んでいるのは、なかなか様になっていました。「サハラに舞う羽根」という映画でした。


A・E・W・メイスン「サハラに舞う羽根」
金原瑞人・杉田七重(訳) 原題“The Four Feathers”(角川文庫,2003年)

サハラに舞う羽根 (角川文庫)
総合評価:★★★★☆
 19世紀末、大英帝国の栄光の頃。
 エジプト出征が近いことを知った青年将校ハリーは、そ知らぬ振りで、婚約を理由に軍籍を離れる。彼は、戦場で臆病な振る舞いをするのではないかと、ずっと怯えていたのだ。
 しかし、出征を知って逃げたことは、すぐに3人の同僚にわかり、彼は臆病者の印「白い羽根」を送りつけられる。そして婚約者エスネまでもが、それを知って、白い羽根を突きつけたのだった。
 全てを失ったハリーは、4枚の羽根を返上する機会を求めて、単身エジプトへ向かうことを決意する。
 もともと1901年に発表された中篇「臆病者The Coward」を、原作者自身が、連載用に改めた長編小説です。
 英国人が、20世紀最高の歴史小説と信じるところだそうで、過去に7度もの映画化がされています。私が見たのは、その七度目になります。
 この角川文庫版はいわゆるノベライズ本ではなく、原作の新訳です。

 話の大筋は簡単で、名誉挽回のためのハリーの冒険譚に、親友デュランス中尉(後に大佐)との三角関係が絡みます。
 件の映画版とは、かなり異なっています。映画であったような派手な戦闘シーンはありません。親友デュランスが、主人公並に大きな扱いになっています。
 また、映画では、植民地支配への疑問というテーマも盛り込まれていたように感じましたが、古い原作では、清々しいばかりに罪悪感のかけらもありません。ハリーを助けるアラブ人アブー・ファトマも、単にタフで忠実といった感じです。

 植民地というテーマが無いので、ハリーの退役理由も良心的兵役拒否ではありません。
 原因は想像力です。想像力豊かなハリーは、戦場の危険をリアルに想像でき過ぎ、それゆえの自身の臆病な振る舞いをも妄想してしまいます。失敗により名誉を失うことを恐れ、従軍そのものから逃げてしまったのです。
 そんな心理は、想像力に欠けた3人の同僚や、父である将軍には理解できないわけですが。
 理解してくれたのは、父の元部下くらいです。その人は、幼い頃のハリーに「案ずるより産むが易し」の一言を言わなかったのを悔やむはめに。

 さて、本書、好みが分かれるところは、内心描写が大変ストレートに書かれている辺りかと思います。行間を読むというような部分は、ほとんど無さそうです。
 物語中、重要登場人物は、それなり思惑があって、心理戦を交わしています。(そして、上掲想像力が欠けた人々の例のように、時に読み違いをしていたりするわけです。)
 ところが、読者にはストレートな記述で内心が公開されています。例えて言うなら、カード遊びをしているのを、脇で見ていて全部手の内を知っているような状況です。たぶん、つまらないと感じる方もいるでしょう。

 以上、もろもろ置いておいて、同時代小説として読むと、なんとも興味深い作品です。映画のような植民地論という現代的ヒネリが無く、当時の大英帝国人の感覚がうかがえます。
 ローマ人やケルト人への言及の辺り、アイルランド人やスコットランド人というくくり等、英国理解の素材にもなるでしょう。

総合評価:★★★★☆(話の筋より、時代の雰囲気が美味しいかも。)
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