山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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流氷の海―ある軍司令官の決断

相良俊輔「流氷の海 ある軍司令官の決断」
                 (光人社NF文庫,1994年)

流氷の海―ある軍司令官の決断 (光人社NF文庫)総合評価:★★★☆☆
 太平洋戦争当時の陸軍中将、樋口季一郎の伝記。1973年に発行された単行本の文庫版。一言で言うと、中小企業の社長立志伝風+北方陸軍作戦記。

 内容は、大きく分けて、1・2章、3・4章、5・6章の三部構成といえます。
 第一部は、アッツ戦時の回想と言う形式で、「オトポール事件」を中心とした特務機関時代を。
 第二部は、北方軍司令官として、アッツの玉砕を命じる過程と、キスカの撤退作戦を指揮する過程が中心です。これに前線部隊の描写が、かなり加わります。
 第三部は、樺太・千島での対ソ戦の前線描写が主体で、これに司令部の状況が若干。さらに、冒頭には、戦前の対中和平工作の模様も描かれています。
 はっきりといって、きわめてわかりにくい構成です。特に、第一部は前述の通り回想形式なのですが、現代―アッツ戦(S.17・札幌)―オトポール事件(S.12・ハルピン)―駐在武官(T.14・ワルシャワ)……という具合に幾重にも続き、混乱します。

 資料的価値もあまり高いとはいえません。
 種本となっているのは、戦後作成された「樋口メモ」であるようなのですが、どこまでがメモによる内容で、どこからが筆者の推測か記述からはあいまいです。
 前線の戦闘描写がかなり豊富に含まれていますが、ソ連側資料の不明な時期の執筆でもあり、事実誤認や推量が見受けられます。執筆当時は、千島方面の資料としては貴重だったと思われますが、現在では他にも資料が存在しますので(例:中山隆志「一九四五年夏最後の日ソ戦」)。

 個人的に興味深かったのは、特務機関(情報部・スパイ)時代のことです。
 オトポール事件というのは、満州国に、ナチスの迫害を逃れたユダヤ難民が入国を求めた事件です。オトポールはソ連国境の地名。ドイツと同盟下にあった日本は、入国を拒ませます。しかし、ハルピン特務機関長だった樋口将軍は、越権的に満州鉄道などに手を回して、ユダヤ難民の入国を成功させます。
 これによって杉原千畝氏と並んで、樋口将軍はユダヤ人から感謝されているとのことです。
 このほか、日中戦争終結のための工作活動や、シベリア出兵時の諜報活動など、情報関係者らしいエピソードが載っています。

 はじめに社長立志伝と書きましたが、全体に情の深さというようなものを強調する妙に空疎な文章になっているということです(失礼)。樋口将軍は、上級職過ぎるため作戦面で直接の指揮と言う場面があまり無く、戦闘場面では「部下思い」といった書き方しかなかったのかもしれません。

総合評価:★★★☆☆(樋口将軍の人間性に強い興味を抱いた方なら。)
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