山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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長崎海軍伝習所―十九世紀東西文化の接点

 またも軍隊飯の話を。自衛隊の軍用糧食が、新潟震災などで救援物資に使われて、なかなか好評だったそうです。おこわが美味しかったとか。
 もっとも、自衛隊が提供した一番のご馳走は、そんなレーションではなく熱いお風呂だったとも聞きますが。
 どちらにしても、熱いお風呂に米の飯と、いわゆる日本的なものが良かったようです。極限状態であればあるほど、カロリーだけじゃなく、心の栄養も大事だなあと思うのです。パイロット用非常食に付いてくるという、「がんばれ。助けは必ず来る。」の紙とか。


藤井哲博「長崎海軍伝習所―十九世紀東西文化の接点―」
                       (中公新書,1991)

総合評価:★★★★☆
 幕末、海防の充実を図る江戸幕府は、オランダの協力を得て、日本初の洋式海軍学校「長崎海軍伝習所」を設置した。その卒業生らは咸臨丸の乗組員となり、また様々な活躍をしていく。その実態と成果、後世への影響について、海外文献を含めた多くの資料からまとめる。
 長崎海軍伝習所は、ペリー来航の2年後の安政二年(1855年)に、鎖国中からの友好国オランダの支援を受けて開設されました。オランダ海軍の将兵が教官となり、やはりオランダ製の軍艦を練習船として、海軍教育が行われたのです。
 生徒は、幕府直属武士の旗本・御家人だけでなく、水夫として集められた日本船の船員や、各藩から派遣された武士たちも含まれていました。江戸無血開城で知られる勝海舟も、幕府学生として入校しています。もっとも、彼は落ちこぼれだったようですが。

 本書は、伝習所の設立の経緯、教育内容の変遷のほか、個人の動向についてかなりくわしく記してあります。全3期からなる学生の名前について、水夫である非武士(例えば、「三吉」「熊蔵」)まで網羅しているのは、手軽な本では他に無いでしょう。
 また、他の特色としては、教官を務めたオランダ士官ライケンとカッテンディケの本国政府への報告書など海外文献を多く用い、従来の日本側資料と照合して再検討している点が挙げられます。特に、それまで伝習所についての一級資料とされてきた勝海舟の著書について、多くの問題点が存在することを指摘しています。

 本書の副題に「文化」の文字が見えるとおり、文化の壁・文化交流が本書のテーマのひとつです。
 伝習所は海軍学校といいながらも、海軍士官たるものゼネラリストたるべしというヨーロッパ海軍の思想に基づき、総合科学大学といったカリキュラムになっていました。これは、広く西洋について学びたがった学生の嗜好にも、うまく一致したようです。結果、これは明治初期にかけて、西洋文化・技術吸収にそれなりに役立ちます。
 一方で、文化の壁に悩まされることも多かったようです。
 例えば、食習慣。教官は、学生がそれぞれ七輪を持ち出して、船の上で煮炊きをすることに閉口させられます。火災の危険があると注意しても止まなかった様で、後の咸臨丸の渡米の際にも、あの福沢諭吉が、自室で火鉢を使っていて小火を起こしてしまいました。
 また、水夫にあてられた日本の船乗りたちは、従来の習慣にはない夜間航海を嫌がり、当直を立てないまま一斉に寝てしまったりします。
 西洋では下級兵士の役割である太鼓係が、日本では侍大将の役目であるため、太鼓係のオランダ兵が学生たちの尊敬を浴びるということもあったそうです。まあ、これは別に悪いことではないですけれど。
 ほかに文化の差が表れて面白かったのは、帰国するオランダ士官への謝礼として贈られた「刀一振り、羽織五枚」などという辺り。

 読んでいくと、重複している記述が若干見受けられることと、司馬遼太郎氏なみに余談が多いのがうるさく感じられるかもしれません。
 しかし、明治期の欧化政策以前の段階で、2つの国が文化を超えて一つの目標に挑戦したという歴史的試みについて、丁寧にまとめられた一冊であり、読んでみる価値はある内容と思います。

総合評価:★★★★☆(原資料にあたるてがかりとしてもそれなり有効。)
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