山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

四人の連合艦隊司令長官

 昨日は、現代の仮想戦記を取り上げましたが、実は、戦前にも仮想戦記が流行したことがあったそうです。そのテーマは、「日米もし戦わば」という実にストレートなもの。一番の有名どころは、英国のバイウォーター氏の「太平洋大戦争(原題:“THE GREAT PACIFIC WAR”)」あたりでしょうか。この本は、なかなかに鋭い予測をしていたという見方もあるようです。日本でも、これに反論する形の論文が大真面目で作られたりしています。


吉田俊雄「四人の連合艦隊司令長官」
               (文春文庫,1984年)

総合評価:★★★★★
 日本海軍の戦力のほぼ全てを指揮下に収めた、最大の実戦部隊「連合艦隊」。太平洋戦争中、その司令長官となった四人の提督と、そのスタッフたちの作戦指揮を追いながら、日本海軍のシステム的欠陥を明らかにしていくノンフィクション。

 以前にご紹介した「四人の軍令部総長」の姉妹編です。
 軍令部というのは、海軍の最高司令部(一応)だったわけですが、こちらの連合艦隊と言うのは、その命令を受けて動く実戦部隊になります。海軍に普段存在する「○○艦隊」をまとめて指揮する上級司令部なので、連合艦隊という名称を持っていました。
 その司令官である連合艦隊司令長官は、山本五十六、古賀峯一、豊田副武、小沢治三郎と4人が太平洋戦争中交代します。前2人は戦死、豊田は沖縄陥落の責任から軍令部総長へ「栄転」と言う形です。

 本書で指摘されている日本海軍の問題点は、次のようなものです。
 第一に、戦術研究に比べ戦略研究が欠けていた事。これは、「四人の軍令部総長」での指摘同様です。軍令部が戦略司令部として十分機能せず、戦術司令部であるはずの連合艦隊が独自に戦略を設定しています。例えば、ミッドウェー作戦の位置づけが、両司令部で一致しないまま進行し、結果空母の主力を失うことになってしまいます。他にも、戦術的勝利を至上視するあまり、船団護衛がおろそかであったり、輸送部隊よりも軍艦ばかり狙ったりして失敗しています。海上交通の戦略的価値を理解しなかったのです。
 第二に、個々の戦術判断が希望的観測に陥りがちなこと。希望的観測のあまり、せっかくの重要情報を無視してしまいます。
 第三に、人事機能の不全。士官学校(正式名は「兵学校」)の卒業年次と成績に固執し、不適材不適所に陥ります。確かに、このシステムなら命令継承順位の確定は容易なのですが(例えば、筆者は2868番目だったそうです。)、不都合はそれ以上でした。魚雷の専門家が空母の命令をしたり、『最後まで飛行機の価値を理解できなかった』と自白している人物が参謀長に就いたりしてしまいます。
 もっともこの第三番目については、敗戦直前の頃になって、ようやく運用上の工夫で多少改善されます。最後の長官である小沢は、大将ではなく中将のまま長官になっています。
 以上、私が特に感じた3点を挙げてみましたが、まだまだ問題点は抽出出来るかと思います。

 前述の通り、全実戦部隊を握る大きな司令部を扱った文章ですので、太平洋戦争中の海軍作戦をおおむね網羅しています。
 少々古い本なので、細かな事実誤認はあるのですが、大筋は大変正確なので、特に海軍オタクではない初心者でも、安心して読んでいけるかと思います。

総合評価:★★★★★(兵器の性能以前の、人間側の問題点を探る。)
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