山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇

堀栄三「大本営参謀の情報戦記」
             (文春文庫,1996年)

大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)総合評価:★★★★★
 旧陸軍大本営参謀で、戦後は防衛駐在官(駐在武官)などを務めた著者が、その任務の中で見てきた日本の軍事情報分析の実態を記録した回想録。
 著者自身が敗戦直後に作成したメモを基礎資料に、平成元年に版行された本の文庫版。

 I章は陸軍大学校での情報教育について。戦術ばかり重視し、情報の収集分析は重視しなかったことを批判します。情報は教官が与えてくれる設定を鵜呑みにするだけだった点を指摘しています。
 II・III章は、大本営第二部(情報部)参謀として、主に米軍の戦術の分析とマニュアル「敵軍戦法早わかり」の製作にあたったこと。師団なら師団という建前ではなく、実際の火力である「鉄量」を基にした戦力比較が日本軍には欠けていたのだといいます。
 IV章では、フィリピン防衛を任務とする第14方面軍での情報参謀としての活動。レイテ決戦を進める大本営と、ルソン決戦を主張する著者ら方面軍の対立や、敵の上陸日時の予測の苦労が描かれます。
 V章では大本営に復帰して、B-29の行動分析と本土決戦での連合軍の行動予測にあたる。
 VI章では、自衛隊の情報部門で経験したスエズ動乱と、西ドイツで防衛駐在官として見たキューバ危機を。
 最終VII章では、日本にとっての情報の軍事的重要性を説いていきます。

 著者は、その予測があまりに正確なことから、「マッカーサー参謀」(マッカーサーの部下であるかのように米軍に精通している意)の異名を取った、情報分析のプロです。
 随所でその鋭さが発揮されます。特にそれが目立つのはフィリピン戦前後でしょうか。レイテ島の戦況の推移や、ルソン島への上陸日時などをピタリと当てています。残念ながら、十分にはその予測が採用されなかったようですが。
 著者自身は、その鋭さを自慢するような部分はあまりありません。むしろ、結果として敗れた以上、もはや語るべきではないとも思っているようです。本文中でも、いくら優れた情報でも必要なときに間に合わなければ意味が無いと述べています。原爆投下の予測に後一歩及ばなかったことを、強く悔いていたというのもあるのかもしれません。

 読んでいって悲しくなってくるのが、大本営の内部分離です。まあ、日本軍には(というか、日本の組織の話では?)お決まりの、組織内部での派閥やら縦割り主義やらといえばそれまでですが。
 まずは、陸海軍の対立。例えば、台湾沖航空戦で、当初の戦果とはかけ離れた実態が明らかになっても、海軍はそれを陸軍側にはあまり明らかにはしません。大戦果を信じた陸軍は、その後あまりに楽観的な作戦を進めてしまいます。
 それから、陸軍の中でも一部エリートとそれ以外の対立。著者の言い方を借りれば『大本営の中にもう一つの大本営奥の院』があったようだということになります。せっかく、筆者から鋭い分析結果が入ってきても、「奥の院」の計画に合致しないと握りつぶされてしまいます。まあ、一参謀の報告をそのまま採用しろというのは、後知恵かもしれませんが。
 最高戦略司令部であるはずの大本営でこの状況ですから、ひどいことになるわけです。

 終りのほうに出てくる戦後の自衛官としての活動も、めったに知ることが出来ない話で非常に興味深いものでした。
 情勢が緊迫した中で、もっとも頼りになるのは「耳の大きい兎」である紛争地周辺の小国であるという話や、西ドイツ赴任前に旧ベルリン駐在武官・大使として著名な大島浩氏に助言を受けたこと。国産戦車の参考データにするため、戦車工場見学の際にこっそり部品の寸法を取ったことなど。
 その中で指摘される現在の日本の情報戦のお寒い状況も、情報戦の第一線に立ち続けてきた人の言葉であるだけに、非常に説得力があるように思いました。

総合評価:★★★★★(兎の最大の武器は長い耳である。)
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