山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

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反跳爆撃と神風

 昨日紹介した「日本軍の小失敗の研究」について、執筆姿勢および内容として疑問に感じた点を書いておきたいと思います。

 本書中に、反跳爆撃と神風特攻を比較している部分があります。
 反跳爆撃というのは、飛行機で水面近くを飛びながら爆弾を落として、水面でバウンドさせて命中させる攻撃方法です。石切りとか水切りという、水面に石を投げてバウンドさせる遊びがありますが、あれと同じことです。英語では“skip-bombing”(スキップボミング)というようです。
 第二次大戦当時、飛行機から船を攻撃する手段としては、普通に飛びながら爆弾を落とす水平爆撃、目標に向かって降下しながら爆弾を落とす降下爆撃、爆弾ではなく魚雷を使う雷撃の三つが普通でした。反跳爆撃というのは、これらに続いて実用化された方法で、アメリカやイギリスで熱心に研究されていたようです。
 日本名「81号作戦」(連合軍呼称「ビスマルク海海戦」)と呼ばれる輸送船団を攻撃する際に、大規模に使用されたことで知られます。この戦法に初めて出会った日本軍は、対応できずに輸送船7隻全滅、護衛の駆逐艦も半分の4隻を失う壊滅的打撃を受けてしまいます。

 著者の三野氏の主張は、日本軍は神風特攻ではなくこの反跳爆撃を採用することが、戦術的に正しかったというものです。人道上の問題を別としてもです。
 まず、特攻攻撃の問題点として、損害率100%であることと、命中威力が通常攻撃に劣ることを挙げています。威力が劣るというのは、体当たりの場合、命中速度が飛行機の速度である550km/hを超えないためです。これに対し、『高度八〇〇〇メートルから落下した通常の爆弾は、音速の九〇パーセントに達する』(p.203)といいます。
 反跳爆撃のメリットに関しては、魚雷や降下爆撃と異なり特別な機体や武器が要らないこと、命中率が従来の戦術よりも高いこと、高い技術が不要であることを挙げています。
 逆にデメリットは、大型の爆弾を使ったときに運動性が下がることだけだと言います。

 しかし、どうも著者の主張は、内容的に問題があるように思います。

 まず、特攻では威力が小さいということについては、反跳爆撃でも同じです。反跳爆撃は低空飛行からの爆撃ですから、通常の爆撃と違い、爆弾の速度は落下で加速されることがありません。それどころか、水面にバウンドしてから命中するわけですから、当初の速度(つまり飛行機の速度)よりも、さらに低下することになります。
 しかも、大型軍艦の側面には砲撃戦に備えた厚い装甲があります。反跳爆撃ではその側面に弾が当たるわけですから、大型軍艦には効果が小さいのです。米軍が目標としていたのは、輸送船や小型の駆逐艦ですから大きな効果があったのですが。特攻の大きな目標は、大きな航空母艦の甲板を壊して、飛行機の発進を妨害するところにあったわけですから、反跳爆撃は不適切です。これは大きなデメリットです。
 次に、特別な爆弾が要らないというのも、誤りです。水面にバウンドしたときに爆発せず、ちょうど命中したときに作動するような爆弾が必要です。しかも、バウンドしてもまっすぐ進むような工夫も要ります。
 技術的に容易というのも、言い過ぎのようです。空中戦よりは容易だが、『かなりの技術的難点はあった』(秦郁彦「第二次大戦航空史話」)と言う搭乗員の手記があります。ただ体当たりするよりは、かなり難しいでしょう。

 さて、以上のように内容的にも問題があるように思うのですが、同時に執筆姿勢が疑問です。
 悪いのが、不都合なデータを無視したり、印象操作を行っているとしか思えないことです。
 例えば、さきほど高度8000mからの通常爆撃のデータを挙げている箇所を引用しました。しかし、これは悪質な印象操作に思えます。8000mというのは、当時としては極めて高い高度です。こんな高空から爆撃しても命中しませんし、そもそも爆装した日本機では到達も精一杯です。水平爆撃でせいぜい 3000m程度、降下爆撃だと1000m以下が通常のようですが。
 また、本書を読むと、日本軍は反跳爆撃に興味がなかったように思えますが、実際はそうではありません。大規模な反跳爆撃部隊が用意されています。(もっとも、作戦前に先制攻撃を受けて全滅してしまったのですが……。)最初の特攻隊も、実は反跳爆撃隊として準備されていた生き残りです。
 そして、このことは、著者が主に参考にしたと思われる秦郁彦氏の「第二次大戦航空史話」(光風社,1986年)にも載っていることなのですが……。ちなみに同書には、特攻と反跳爆撃を関連させた記述も出ています。本書よりも10年前の本です。
 前述の技術的困難を指摘する手記も、「第二次~」に載っていたものです。なぜか、これも忘れられてしまったようですが。

 神風特攻を、道義的にではなく、技術的に評価しようとしたことは有意義であると思います。本書をきっかけとして、再評価が進んだということはあるようです。
 また、著者の言うように、当時の司令部が、特攻の効率について分析を怠ったのも事実かもしれません。
 しかし、十分な検討をせずに出版してしまい、おまけに自己の主張を正当化するために操作を行うことは、著者自身の批判する日本軍のあり方と重なるような気がしてなりません。

 以上、戯言。でも、おら、人柄は悪い人とは思えねえんだ。
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