山猫文庫第3版

書評と軍事史関連のレポート、その他ニュースを見て感じたことなど日常のあれこれについて。 

中立国の戦い―スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標

 「スペイン内戦と海軍」シリーズの参考にした資料を、もう一冊ご紹介しておきたいと思います。

飯山幸伸「中立国の戦い」
            (光人社文庫,2005年)

中立国の戦い―スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標 (光人社NF文庫)総合評価:★★★★☆
 「中立国」は、いかにすれば平和と独立を保つことが出来るのか。第二次世界大戦中、戦場に近接しながらも、かろうじて独立を維持できた中立国3国(スイス、スウェーデン、スペイン)の政治的背景や外交的・軍事的努力をまとめた一冊。その他の中立国(トルコ、イラン、アルゼンチン、アイルランド、ポルトガル)についても簡単に記す。巻末に、参考文献一覧、中立各国の軍備の概要表付属。

 中立国というのは、それほど美しいものではないということは、割合に知られるようになっているかと思います。例えば、最近よく名前を聞くスイス銀行が、ナチス・ドイツがユダヤ人や占領地で吸い上げた秘密資金の運営に、使われたというような「黒い」お話があります。
 ただ、スイスをはじめ中立国は、そういう後ろ暗い迎合ばかりをしていたわけではない、ということを総合的にまとめたのが本書です。
 主要な中立国3国について、戦前の背景事情から始まって説明してくれます。特に、スイスについては、国家成立の経緯から、「永世中立」が認められていく過程が、かなり詳しく書かれています。
 世界大戦に突入して、周囲の中立国が次々と『保護占領』の名の下に蹂躙されていく中では、独立と中立を維持するため、3国は必死の努力をしていきます。
 詳しくは、本書を読んでいただくとして。陸軍総動員、空軍の整備、防諜の徹底などの軍備をする一方で、連合国・枢軸国いずれにも占領の口実を与えない、ギリギリの譲歩とバランスと忍耐の外交を重ねます。交戦国軍の通過を許し、脅迫めいた「誤爆」を受け、時に迷い込む領空侵犯機と戦い……。スイスの黒い部分も、そのほんの一面に過ぎません。
 特に、近隣の友邦を見捨てるスウェーデンの決断には、中立の厳しさを思い知らされる気がします。

 ところで、この本を読んでいると、真珠湾攻撃のある1941年末までの3年間、アメリカは本当に中立国だったのかよ、とつっこみを入れたくなってきます。援英ソ物資は送るわ、アイスランドは占領するわ。一方で、スイスやスウェーデンに対しては、「中立違反」と厳しく詰め寄る様子を見ていると、いやはや。

 内容の正確性については、正直なところ私の知識不足で、ほとんど判断がつきません。
 ただ、スペイン部分を見ると、例えば『巡洋艦ジェイムI』(p.230正しくは戦艦ハイメI)、『バレアス諸島』(p.224バレアレス諸島)、「第五列」発言をフランコ将軍としている(p.134モラ将軍)と言う具合に、細かな誤りがみつかります。最初の点に関しては参考文献の誤りをそのまま引き継いだものだと思います。また、『艤装巡洋艦』(p.261おそらく擬装巡洋艦)などという誤植もあります。裏づけ調査や推敲が不十分なのではないか、つまるところ手抜き仕事ではないかという匂いがしないでもありません。
 もっとも、スペインについては、内容・参考文献量からして、3国の中で一番手薄な部分のようです。それ以外の2国については、もう少しきちんと検討がされているかもしれません。

 なお、本書中、中立国が関わる戦争映画が、いくつか紹介されていたのが、また興味深かったです。
 「スイス500年の平和が生んだのは鳩時計だけさ」と言うのは映画「第三の男」のハリーですが、その500年の平和そのものを生むには、途方も無い努力(と幸運)が必要だったのだよと思えてきました。

総合評価:★★★★☆(狐の智、獅子の勇、貝の忍。細かなミスが散見され怪しいので★1個減。)
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